ー商業アートとファインアートを使い分けるベテラン作家ー
いつもは若手作家だが今回は商業アートとファインアートを使い分けるベテラン作家を紹介する。
まずは1947年生れの中村成二。九州産業大学芸術学部デザイン科中退後イラストレーター&絵描きとして個展グループ展多数。1976年第5回現代洋画精鋭選抜展銀賞(伊勢丹賞)受賞。
「イラストレーションは、あくまでも文章に付随するところの挿絵ですので、本文の内容をどれだけキャッチーに表現できるかが勝負だと考えます。オリジナル絵画の方は主に鉛筆画ですが、何かの拍子にイメージが浮かんだとして、それを鑑賞者の興味を引くように、如何に面白く構築して画面に定着させるか。どちらにしても、独自性を持たせて表現することを心掛けています。」と言う。
官能小説、時代小説、週刊誌などの装幀画や挿絵も手掛ける一方、音楽誌JAM(ジャム)カバーイラストや美人画、裸婦像などのオリジナル作品も発表している。
二人目の妃耶八さんは埼玉県出身で東京工学院芸術専門学校グラフィックデザイン科卒業後、千葉県立博物館創設にあたり生物のペン画、次に学研の百科事典で人体、植物を担当。その後フリーイラストレーターになり人物画に焦点を合わせて官能劇画誌、官能小説の表紙の仕事をするようになり手がけた表紙は400冊以上になる。若い頃田中一村展を見て衝撃を受け日本画にあこがれて、仕事の傍ら日本画顔料の研究を続け日本画家としての活動も始める。
「仕事の絵は、自分の好きに描くものではなく、常に読者目線を意識して描きます。本の表紙なら内容から人物イメージを作ります。特に官能画は色気と魅力と親近感が大切です。その結果、売り上げが良く出版社も喜んでくださったらそこに自分の喜びもあります。一方自由に自分の好きな絵を描き大切なものを表現する場がアートです。心の奥底から絵を引き出すような作業の時もあれば、描く前から完成図が浮かぶときもある。自分の好きな絵が描けたときが一番至福の時です。このように仕事の絵とアートでは使っている脳の部位が全く違います。」
三人目は前田俊樹。1964年大阪府池田市出身。同志社大学商学部卒業。大学では絵画サークルに所属し2年生の時京都のスタジオMで開催のイラストレーション教室(講師は原田治氏、ペーター佐藤氏、安西水丸氏、新谷雅弘氏)に参加し商業美術に触れる。その後、凸版印刷に就職し、長年通販カタログなどのクリエイティブディレクターとして活動。数年前からは地域活性化、まちづくりのプランナーとして同社に勤務中。作家活動としては、2013年から女性の肖像画を中心に創作。2018年頃から画材を墨にし現在に至る。創作は仕事後や休日に。
「仕事も絵画も創り出す面白さを感じて取り組んでいます。作品制作に当たって今取り組んでいるテーマは、『描かずに描く』。子供の頃に見た『ハイジ』や『フランダースの犬』などアニメのキャラクターがフラットな色塗りにも関わらず単純な線だけで顔や身体に丸味を感じられたことが原点。描き込んだり塗り込まない画風で創作活動をしています。線は描いてないが、線が見えるように描くことに挑戦中。」と言う。
山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。