平面美術の領域で国際的にも通用するような将来性のある若い作家を支援することを目的に、1994年より毎年開催されている美術展「VOCA展」。日頃から公平な立場で作家たちに接する機会の多い全国の美術館学芸員、研究者などから推薦委員を選出し、各々に40歳以下の若い作家1名を推薦してもらい、推薦された作家全員にこの展覧会への出展を依頼している。こうしたシステムだからこそ、東京だけでなく全国各地で活躍する作家たちにもスポットを当てることが可能となったのだ。
その29回目となる「VOCA展2022 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」が、3月11日から30日までの20日間、上野の森美術館で開催されている。
33組の作家たちの作品を厳選に審査した結果、グランプリであるVOCA賞に選出されたのが、川内理香子の《Raining Forest》。この作品は川内が2018年より制作している「Mythology(神話)」シリーズのひとつで、キャンバスに厚く塗り重ねられた油絵具の層から掘り出すように描かれたものだ。この作品について川内は次のように語っている。
内と外の境界線を探して線を引く。その線にその瞬間の身体の動きや思考が凝固する。今回VOCAで出品した作品に描かれるジャガーは、自然のヒエラルキーの最高峰と神話の中で位置づけられる火を、人間にもたらすものだ。自然と人間を結合し、分断もさせ、それらの媒介者であるジャガーの両義性は、肉体と精神の狭間で揺れ、自己と他者の曖昧さを保有する身体とも重なり、物質とイメージや思考の結合である絵画という媒体の中で鎮座する。
その他の入賞作品として、VOCA奨励賞に鎌田友介《Japanese houses (Taiwan/Brazil/Korea/U.S./Japan)》と近藤亜樹《ぼく ここにいるよ》が、VOCA佳作賞に谷澤紗和子《はいけい ちえこ さま》と堀江栞《〈後ろ手の未来〉#2、〈後ろ手の未来〉#3、〈後ろ手の未来〉#4、〈後ろ手の未来〉#5、〈後ろ手の未来〉#6》、大原美術鑑賞には小森紀綱《絵画鑑賞》がそれぞれ選出されている。
ここで選考委員長である多摩美術大学の家村珠代教授の選考所感を引用しよう。
今年の入賞作品は、作品を見るだけではなく、読み解く楽しさに満ち溢れていた。
川内理香子の作品は、皮膜のように重ねられた柔らかい絵具層から、植物、動物、内臓、文字が、自然に浮かび上がってきているように見える。その一方で、頓着のなさを装って意図的に刻まれた痛々しい傷のようにも見えた。ひとつの細部に向かう視線が、他の細部へと加速度的に繋がり、イメージが交代する。イメージの生成を問い直す秀作である。
近藤亜樹の作品は、色、線、モチーフ、構図などすべての要件を総動員して、生きていることの喜びをストレートに伝えている。少年が、正面から動きや色を抑え、写実的に捉えられる。2枚のパネルを併置したこの作品は、まるでアルバム写真を描きなおし、それらに新たな生を与えなおしているよう。そこにこれまで大きな動きを持った画面をつくってきた彼女の新たなる力量を見た。
今回の「VOCA展2022」もあわせて、VOCA展にはこれまで延べ984組の作家が出展し、ここから大きな躍進を遂げる作家たちを輩出してきた。来年には30周年を迎えるこの若手作家の登竜門が、今後もまた、どんなアーティストを紹介してくれるのかが楽しみである。
来年のVOCA展30周年を記念して、特別協賛である第一生命の日比谷本社1Fにある第一生命ロビーで、同社が所蔵する1994年から2022年までのVOCA賞受賞作品29点すべてを公開する「VOCA 30 Years Story / Tokyo」が開催される(会期は3月11日~11月30日)。その後、会場を神戸・原田の森ギャラリーに移し「VOCA 30 Years Story / Kobe」を実施(2023年3月:詳細が決まり次第、下記のURLで発表)。それぞれの時代を反映する作品をあらためて一望できる、またとない機会になるだろう。
[information]
VOCA展2022 現代美術の展望─新しい平面の作家たち
・会期 2022年3月11日(金)〜 3月30日(水)
・会場 上野の森美術館
・住所 東京都台東区上野公園1-2
・時間 10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
・休館日 会期中無休
・観覧料 一般800円、大学生400円、高校生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方と付添の方1名は無料(要証明)
・URL https://www.ueno-mori.org/exhibitions/voca/2022/