──書は決して難しくない。
日本は中国書の伝統を受け入れ、発展させ、かな文字という日本独自の文字を生み出してきた。しかし平成に携帯電話が普及すると、文字を書く機会がめっきり少なくなり、自筆で手紙を書く人も激減。さらに、コロナ禍以降はリモートワークが普及するなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が急速に進んでいる。そんな今こそ、「心に響く『書』の本質」に立ち返る時ではないだろうか。知れば知るほど面白い、日本と中国の書文化を学ぼう。
(以下は書籍『THE 書法』から、一部を抜粋して掲載/記事内の情報、写真等の一部は2010年現在のもの)
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探求・文房四宝──筆紙硯墨 文房四宝の源流を訪ねる中国の旅
古来より伝わる素材と製法へのこだわり (前回=2022年11月13日更新分より続く)
中国の筆は軟毫、硬毫、兼毫の三種類に分けられるが、その原料は数十種にも及ぶ。軟毫は柔らかな獣毛を使用した筆で、墨の含みが良く、草書や行書に適している。硬毫は比較的芯の強い獣毛を使用した筆で、力強い楷書に適している。一方、兼毫は外側に柔らかな獣毛を使い、内側には硬めの獣毛を混ぜたもので、剛にも柔にも対応できるため初心者に向いていると言える。
宣筆や徽筆の穂先の素材としてよく利用されるものは、鼬、山羊、鼠、馬の毛。鼬は硬毫の代表格で、少し硬めであるが弾力性に富んでいる。高級な筆には、この鼬の毛が使われることが多い。
山羊は最も一般的な軟毫の材料である。この地方に生息する山羊の毛は白くて長く、細くて柔らかい非常に質の良いもの。中には何百頭もの山羊の毛を集めて作られた大揮毫用の大筆もある。
馬の毛は硬く、大筆に使われることが多い。また、色が似ているために鼬の代用として硬毫に使われることもあるが、質は良くないとされている。
この辺りで灰鼠と呼ばれる鼠の毛も、鼬の代わりに硬毫に使用されるが、弾力性ではとても及ばない。
どの獣毛を使用する場合も、原料は厳しく選別される。こうした品質管理が、質の高い筆を生み出しているのだ。
先に筆作りには72の工程があると書いたが、その代表的なものは「浸皮」「発酵」「採毛」「選毫」「分毫」「結頭」「装筆」「配管」など。
原料である獣毛は約12時間石灰水に浸され、余分な油脂分が除去される。その後、筆先に生まれ変わる獣毛は選別され、筆一本の量だけ取り分けられ、根元が糸でまとめられる。筆先を固めるのは、海藻から作ったふのりである。安価な筆ではガラスやプラスティックが用いられることもあるが、宣筆や徽筆の軸として使われるのは牛の角や竹が一般的だ。特に高級なものになると、象牙で作られることもある。
こうして別々に作られた穂先と軸が一つに繋げられ、軸の側面に銘が入れられると完成だ。老街の「楊文筆荘」の店頭に並んでいる筆には、その店名が誇らしげに刻まれている。
※この記事は2010年11月30日に発行した書籍「THE 書法」の内容を再掲載したものです。社会情勢や物価の変動により、現在の状況とは異なる可能性があります。
THE 書法
発行:麗人社
発売:ギャラリーステーション/価格:本体3,619円+税
仕様:A4判・500ページ/発行日:2010年11月30日
ISBN:978-4-86047-150-7