聞き手・文/REIJINSHA GALLERYスタッフ
無機質な階段を登り切った先に、薄明の空を切り取る窓が一つ。閉塞感とノスタルジーが交錯する空間を描くのは、女子美術大学油画科に在籍する作家、RiAn(リアン)だ。
その不思議な風景描写を通じて、何を描き出そうとしているのか。REIJINSHA GALLERYにて2024年に開催されたグループ展「FIRST CONTACT」へも参加した彼女に、同ギャラリースタッフがインタビューを行った。
◆絵が上手くなりたい
── まず初めに、絵を描くようになられたきっかけについて教えてください。
きっかけというものは特に無かったように思います。物心ついた頃には、女の子の姿やアニメのキャラクターを描いていました。もちろん、当時描いていたのは落書き程度のものではあったのですが、とにかく描くこと自体が楽しかったです。それでも、小学校高学年の頃にある少年漫画にハマって、その背景の素晴らしい作画に衝撃を受けたことが「絵を上手く描けるようになりたい」と思うきっかけになりました。
── そのきっかけとなった漫画とは、どんな作品ですか?
冨樫義博さんの「HUNTER×HUNTER」という作品です。
── 本当にすごい作画ですよね!私も大好きな漫画です。そこから大学で油画を専攻されるまでには、どのような経緯があったのでしょうか?
絵が上手くなるためにも美大への進学を自然と選択していましたが、予備校に入学した時点ではまだ専攻を決めかねていて、漠然と「平面や立体を問わずいろんな作品を作っていきたいな」と考えていました。そんな中、その予備校の先生が「油画専攻なら他の学科よりも自由に制作させてくれるよ」とアドバイスをくれたので、油画科を選ぶことにしました。
◆「作りたい」という気持ち
── 確かに、RiAnさんは平面作品だけでなく、立体作品も度々制作されていますね。平面作品と立体作品とでは、制作に対するスタンスやテーマに違いはあるのでしょうか?
そういった違いは特にありません。テーマやアイデアごとに、それが作品になった時にどう設置するか、どう見せるかを考えて、ふさわしい形を選んでいます。
── 平面作品と立体作品、それぞれ制作をする中で楽しいと感じる部分や大変なことはありますか?
平面作品は、比較的スムーズに作業が始められるので描くこと自体は楽しいのですが、いつも彩色の明暗や奥行きの表現で悩んでしまい、途中でどう描いたらいいのかわからなくなってしまうこともよくあります。立体作品については、作業を計画的に進めやすいところが好きなのですが、途中で飽きてしまいがちで…(笑)。
── でしたら、平面と立体、並行して交互に取り組んでみるのはどうでしょう?
あ、いいかもしれませんね!どちらかで行き詰まったら、息抜きにもう一方を作って…ずっと作り続けられますね!
── 「辛いから作りたくない」とはならないところが凄いです(笑)。
── RiAnさんにとっての創作活動とは、どんなものですか?
空腹感とごはんの関係に似ているかも知れません。ご飯を食べても時間が経つとまたお腹が空くように、自然と「あ~、作りたい!」という気持ちが湧いてくるので、いつも何かを作っているというか…。
── それだけ、必要不可欠なもの、ということでしょうか。もし制作できない期間が長く続いたとしたら、どうなってしまうと思いますか?
フラストレーションが溜まって、「あー!!!!」と叫んでしまうと思います(笑)。
── なるほど(笑)、制作は発散にもなっているのですね。作品を作るうえで大切にしていることはありますか?
私は制作に没頭し過ぎると必要以上に自分を追い込んでしまう癖があるので、制作に行き詰まったり、「疲れたな~」と感じたらすぐに休むようにしています。以前はその加減がわからずよく体調を崩していたので、その経験から学びました。
── 結局のところ、創作活動においても健康が一番重要な要素ですよね。では、インスピレーションの源は何でしょうか?
これまでの自分自身の経験や感情がインスピレーションの源になっています。特に最近は、過去に抱いたことのある感情を思い出して作品にすることが多いです。
◆孤独と向き合い、その先へ
── 2024年開催の企画展「FIRST CONTACT」へ出展された作品は、その前年に発表された「Liminal Space」からつながるシリーズですね。このシリーズにはどのようなコンセプトがあるのでしょうか?
「Liminal Space」というのは、一時期からネット上で広まったネットミームの一種です。訪れたことが無いのに見たことがあるように感じる建物内部の景色や、孤独や不安を抱かせる空間のことを指すそうなのですが、その画像を初めて見た時に、私は懐かしさを感じました。それはたぶん、私自身が普段から抱いている感覚と「Liminal Space」という概念との間によく似た部分があるからで、その気付きをきっかけに、自身の孤独や不安といったネガティブな感情を表現するためのモチーフにしています。
── RiAnさんの過去作品のステートメントを拝見すると、まさに「孤独」や「不安」といったネガティブな感情がテーマになっているものが多い気がします。それには何か理由があるのですか?
幼少期から孤独を感じることの多い環境にいたことは、かなり影響していると思います。ある程度成長してからも、ネガティブな感情が溜まった時には自分自身がその感情に振り回されてしまうようなこともありました。ですが、ある時から作品を制作することでそういった感情を受け入れたり、「あの時の自分はどう思っていたんだろう」と自分を見つめ直すことができるようになりました。その結果として、作品のテーマになることが多くなっています。
── 今回の「Liminal Space」シリーズをはじめ、これまでの作品に空を描いたものが多いのはなぜですか?
私にとって、空は自由や解放の象徴です。実は高校時代に、しばらく鬱状態になってしまった時期があるのですが、久しぶりに少し調子の良かった日に家の近くを散歩していたら、ちょうど雲一つない快晴で。あまりに綺麗な青空を見上げているうちに、なぜだか急に「私は自由だ!自分の意志で選んで生きてる!」と強く思えて、気持ちがスッと楽になったんです。その経験から、意識的に空を作品の中で描くようになりました。
── それでは、今後の活動についてもお聞きしたいと思います。大学卒業後にはどのような進路をお考えですか?
今は大学院に進んで、もっと絵についての勉強をしたいと思っています。もちろん、試験もありますし、はっきりしたことはまだわからないですが…。いずれにせよ、作品は作り続けていきたいです。
── 今後、何か挑戦したいことはありますか?
今から4年以内には個展をしてみたいです。作品を見た人の孤独が癒されたり、「またこの空間に戻ってきたい」と思ってもらえるような展示になればいいな、と考えています。
慎重に言葉を選びつつ、他者を「癒したい」と穏やかな笑顔で語ったRiAn。自身の孤独と真摯に向き合ってきたからこそ、彼女の作品は他者の心に寄り添うことができるのだろう。
描かれた窓の先に、希望を見た気がした。
[information]
RiAn
2002年
東京都生まれ
2021年
女子美術大学芸術学部美術学科洋画専攻入学
2022年
深夜の美術展vol.29(グラースウォール/東京)
2023年
犬猫アート展2023(ギャラリー国立/東京)
2024年
Bゼミ展(ギャラリーいちょうの木/東京)
FIRST CONTACT(REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、神奈川県にて制作
女子美術大学在学中
・Instagram @rianrian.215
・X @RiaN84963101
[information] ※この展覧会はすでに終了しています。
FIRST CONTACT
・会期 2024年8月23日(金)~9月6日(金
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00~19:00(最終日は17:00まで)
・休廊 日曜、月曜、祝日
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery