工芸黄金時代の明治期に
その実力を公に認められた
帝室技芸員。
京都市京セラ美術館では7月23日から「帝室技芸員」にスポットを当てた特別展「綺羅めく京の明治美術―世界が驚いた帝室技芸員の神業」が開催される。
帝室技芸員とは、帝室(皇室)による美術工芸作家の保護と制作の奨励を目的として設けられた顕彰制度。明治21(1888)年に17名が「宮内省工芸員」に選ばれ、後に「宮内省技芸員」と名称を変える。そしてその2年後には帝室技芸員制度が発足。以降、昭和19(1944)年までに計79名が帝室技芸員に任命された。その分野は陶磁、七宝、漆工、染織、金工、刀剣、絵画、彫刻、建築、写真、篆刻、図案と多岐に渡る。現在の「人間国宝(重要無形文化財保持者)」の前身といえる制度だ。
※参考文献:東京国立博物館140周年特集陳列「大正元年 帝室技芸員からの寄贈品」(2012年9月19日[水]~12月9日[日])解説文
制度発足の背景にあったのは、政府による美術の奨励だけではない。明治維新によって幕府や諸藩の庇護を失い、窮地に立たされた画家や工芸家を救い、優れた技術を保存する目的があったのだ。帝室技芸員は美術界における最高の栄誉と権威を示す制度となり、昭和19(1944)年まで続いた。もちろん、伝統的な美術や工芸が根づく京都の出身、あるいは京都在住の美術家も多く選出されている。
この展覧会では、制度が発足した明治期を中心に、京都にゆかりのある19人の帝室技芸員を紹介する。最高峰と讃えられた名作を通して、明治期京都の技と美を体感しよう。
展覧会の見どころ
1. スケールが大きく、華やかな日本画
画家が自身の名誉をかけ、力の限りを尽くして描いた代表作は、スケールが大きく、迫力があり、華やか。この展覧会では、そうした一級品の日本画が数多く紹介される。特に注目すべきは、明治26(1893)年のシカゴ万国博覧会に京都の画家が出品した大画面作品(現東京国立博物館蔵)や、京都・岡崎の地で開かれた第四回内国勧業博覧会に出品した屏風(現静嘉堂文庫美術館蔵)など。今では京都でめったに見ることができなくなった東京からの里帰り作品は必見といえる。
2. 日本の工芸技術の頂点
明治維新によって国際的な文化交流が進んだことで日本の工芸品が盛んに輸出され、万国博覧会などで注目を集めた。産業振興を目的とした工芸家の育成を政府も重視。結果的に日本の歴史上類を見ないほど技術の高い工芸家たちが活躍した。この展覧会では、工芸の黄金期とされる明治時代のもっとも優れた作品が数多く紹介される。
3. 19人の帝室技芸員による個性の競演
明治期に美術工芸の頂点に君臨した19人のオールスターによる秀作が一堂に会すこの展覧会。特に京都画壇からの視点による展示として京都の作家を取り上げることで、京都から全国に向けて発信されたメッセージを当時の社会動向を参照しながら振り返る。
【出品作家】森寛斎、幸野楳嶺、川端玉章、岸竹堂、望月玉泉、今尾景年、熊谷直彦、野口小蘋、竹内栖鳳、富岡鉄斎、山元春挙、五世 伊達弥助、加納夏雄、三代 清風與平、初代 宮川香山、並河靖之、二代 川島甚兵衞、初代 伊東陶山、初代 諏訪蘇山
作家の軌跡を描いたマンガを
インターネットで紹介。
明治美術工芸の粋を集めたような展覧会であるが、現代ならではの楽しみ方も用意されている。それは、出品作家にまつわるエピソードを、マンガにして分かりやすく紹介するというもの。制作するのは、「生誕150年 山元春挙」展(滋賀県立美術館:2022年)などでもマンガを担当した日本画家の河野沙也子。彼女は日本美術史上の人物を研究し、マンガで紹介する活動をおこなっている。
京都市京セラ美術館のウェブサイトやSNSで順次公開予定なので、誰もが簡単にアクセスできる。事前にマンガでこの展覧会に対する理解を深めることで、美術館に足を運んだ時により一層楽しめるはずだ。
[information]
特別展「綺羅めく京の明治美術―世界が驚いた帝室技芸員の神業」
・会期 2022年7月23日(土)〜9月19日(月・祝)
前期:7月23日(土)〜8月21日(日)、後期:8月23日(火)〜9月19日(月・祝)
・会場 京都市京セラ美術館 本館 南回廊1階
・住所 京都市左京区岡崎円勝寺町124
・時間 10:00〜18:00(最終入場は17:30)
・休館日 月曜日(祝日の場合は開館)
・入館料 一般1,800円、大学・高校生1,300円、中学生以下無料
※京都市内に在住・通学の高校生は無料(要学生証)
※障害者手帳等をご提示の方は本人及び介護者1名無料(障害者手帳等の確認できるものが必要)
・TEL 075-771-4334
・URL https://kyotocity-kyocera.museum