コラム

温故知新 vol.19
「2つの個展」

文=松本亮平

2つの個展
2024年、私は現在(6月15日時点)までに2つの個展を開催している。一つは調布市文化会館たづくり1階展示室で現在開催中の「いのちのパレット」、もう一つはREIJINSHA GALLERYにて4月に開催した「温故知新Ⅱ」である。今回はその2つの個展の出品作品の制作の裏側をお見せしたい。

 

「いのちのパレット」 ヒトと生き物について考える
現在開催中の「いのちのパレット」には、12年前に構造生物学を学んでいた大学院時代の作品から最近の作品までの約60点を展示している。

「いのちのパレット 松本亮平展」展示風景

 

構造生物学を学んでいた際にヒトを含めた多くの生き物たちの体を構成する生体高分子の構造に高い共通性があることに驚いた。それはヒトと他の生き物は共通の祖先を持つ仲間であることを再認識させてくれた。
そんな仲間である生き物たちが、支え合っている様子を描いた作品が『繋がり』である。クジラの口からたくさんの動物が繋がり、画面の下にはゾウやライオンなど大きな動物がぶら下がっている。それをクジラの口の中で支えているのは猫や犬、タヌキなどの小さな生き物である。生き物たちはその身体の大小や力の強さなどとは関係なく、それぞれの役割を持っていることを表現している。この構図の着想は狩野探信の『百猿図』の猿たちが手を取り繋がっている様子から得たものである。

松本亮平《繋がり》2015-2022年 アクリル/板 116.7×91.0cm

 

『進化論』はこれとは反対の作品で、ヒトが本来仲間であるはずの他の生き物たちから離れて行こうとする様子を描いている。この作品は2013年、構造生物学を学んでいた頃に制作したもので、ヒトが本来仲間であるはずの生き物たちに対して遺伝子操作や動物実験を行うことに対して、矛盾を感じたことが制作の動機になっている。

松本亮平《進化論》2013年 アクリル/キャンバス 53.0×45.5cm

 

ヒトと他の生き物の共通性に着目して制作しているうちに、日本の古典美術への興味が自然と高まった。日本では古来よりヒトと他の生き物を同じ視点で捉えてきたためである。平安時代の『鳥獣戯画』はその代表例で、動物たちがヒトと同じように相撲をとったり、弓道をしたり、経を読んだりしている。このようにヒトの社会と同じように動物の社会を想像して、その物語を描いたのだろう。私も鳥獣戯画から影響を受け動物たちを擬人化した『動物界における百の寓意』を制作した。動物たちの行動で100個のことわざを表現した全長40mに及ぶ絵巻である。

松本亮平《動物界における百の寓意》(部分) 2015年 墨/和紙 35.0×4000.0cm

 

「温故知新Ⅱ」 日本古典美術における生き物
先日のREIJINSHA GALLERYでの個展「温故知新Ⅱ」は、一層日本美術への傾倒をさらに深めた内容となった。自然や生き物に心を寄せた日本古来の感性を大切に描いた新作が中心である。

「松本亮平 温故知新Ⅱ」展示風景

 

『龍虎図』は人の力の及ばない自然の巨大なエネルギーへの畏敬の念を表現した作品である。これまでの私の作品と比較すると水墨画としての趣きが強い。手前の虎のみアクリル絵具で描かれているが、それ以外はほぼ全て墨による作品である。西洋絵画と水墨画の二種類の異なる空間が重なっている。西洋の科学的な陰影法や遠近法による客観的な空間と水墨画に感じられる深遠な空間を組み合わせることを目指した。

松本亮平《龍虎図》2024年 墨、アクリル/板 41.0×31.8cm

 

この絵を描いた後、以前コラムで扱った狩野山雪の『双龍図』を改めて見ると、奥深さを表現するために余白を効果的に配置し、主題以外を闇や余白に溶け込ませ、全てを描かず鑑賞者に想像の余地を残していることがわかる。

狩野山雪《双龍図》 東京国立博物館蔵 
Colbase(https://colbase.nich.go.jp/)

参考:温故知新 vol.15「空想上の生き物を描くⅠ」

水墨画は深遠な精神世界を描くだけでなく、円山応挙の子犬の絵に代表されるようにかわいい絵にも向いている。応挙の子犬は潤んだ瞳、ふさふさした毛並み、現代人も思わず「かわいい」と思うデフォルメ表現である。一方で子犬の手足や顔の立体感などは最低限の線やグラデーションで巧みに表現し、高いリアリティも有している。
今回私は、墨を用いた「ひよこ図」を発表した。応挙の子犬の例に倣い、目とくちばし 、脚などのポイントは実物に従ってリアルに明確に表現し、体は丸くデフォルメし墨の滲みで表現した。水墨によるかわいい生き物の描き方も今後研究していきたい。

《ひよこ図》画像

松本亮平《ひよこ図》2023年 墨/画仙紙 14.8×10.0cm

 

2024年の2つの個展では、ヒトと生き物の共通性、日本の古典美術における生き物を主なテーマに作品を制作、展示してきた。今後も、現代社会における生き物観を探求し、新たな視点や表現方法を模索し続けたいと考えている。次の個展でも、皆様にお楽しみいただける作品をお届けしたい。

松本 亮平(まつもと・りょうへい)
画家/1988年神奈川県出身。早稲田大学大学院先進理工学研究科電気・情報生命専攻修了。
2013年第9回世界絵画大賞展協賛社賞受賞(2014・2015年も受賞)、2016年第12回世界絵画大賞展遠藤彰子賞受賞。2014年公募日本の絵画2014入選(2016・2018年も入選)。2016年第51回昭和会展入選(2017・2018年も入選)。2019年第54回昭和会展昭和会賞受賞。個展、グループ展多数。
HP https://rmatsumoto1.wixsite.com/matsumoto-ryohei
REIJINSHA GALLERY https://www.reijinshagallery.com/product-category/ryohei-matsumoto/

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