文=松本亮平
鳥は国や時代を問わず多くの画家に描かれてきた人気の画題である。鳥には画家を魅了し続ける美しさがある。私自身も鳥に魅了され、毎朝の野鳥観察が日課になっている。また、画家たちは鳥に美しさ以上の何かを見出しているように思う。今回はその魅力を見ていきたい。
鳥専門のヨーロッパ初の画家と言われているのはルーラント・サーフェリーである。彼の『鳥のいる風景』には画面いっぱいに世界各地の鳥たちが20種ほど色鮮やかに描かれている。アフリカのカンムリヅル、オセアニアの一部に住むヒクイドリ、アマゾン川流域に住むコンゴウインコ、中国から東南アジアに生息するクジャクなど世界各地から集められた鳥たちである。17世紀末に絶滅した飛べない鳥ドードーまで登場している。サーフェリーは神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世のお抱え画家であった。ルドルフ2世は博物学者も抱える知的好奇心の強い人物で、世界中からあらゆる珍しいものを蒐集していた。そのコレクションにはドードーまでいたらしい。鳥は私たちの知らない空や異国を知っていることから夢のある存在なのだろう。皇帝と画家が夢を共有し、世界中の鳥たちを集めた理想郷の創造を目指したように思える。
狩野栄信の『百鳥図』も華麗な鳥たちが画面を埋め尽くしている。珍しい鳥が多く、日常的に見かける鳥は画面左の竹に留まる小さなスズメと右上の太陽の下を飛ぶオナガくらいだと思う。丁寧に絵を見て、時には検索しながら調べていくと私には20種ほど種類を特定できた。それらはとても明瞭に描き分けられており、狩野栄信の鳥への関心の強さがうかがえる。そのうち13種は日本の自然界では見ることのできない鳥だった。この絵の鳥の大半は中国や東南アジア、オーストラリアといった海外の鳥のようだ。やはり海外の珍しい鳥を集め、まだ知らない世界に思いを馳せていていたのだろう。
スナイデルスの『鳥のコンサート』も『百鳥図』に似た構図の作品である。こちらの絵の方が、おなじみの鳥が多いのではないだろうか。クジャク、ハクチョウ、アオサギ、ツバメ、ミミズクなどが目に留まる。穏やかな表情の鳥たちが平和に歌う様子が微笑ましい作品である。
鳥は可愛く、夢のある存在であるとともに宗教的な意味を持つモチーフになる場合もある。ピーテル・ブリューゲルの『絞首台の上のカササギ』はその代表的作品である。タイトルから不穏な作品だが、カササギは単に不吉の象徴ではないのかもしれない。カササギはその黒でキリストの犠牲的な死を予兆し、白でキリスト降誕の喜びを表し、全体としてキリストの復活を象徴するという考えもある。また二羽のカササギの一方は絞首台の上で遠くを見通し、もう一方は地面で虫を探しているようである。その対照的な様子は遠い未来を見通して生きることと今の質素な生活を続けることの対比を表すのだろう。
日本では、カササギはカチガラスとも呼ばれ、勝ちを呼ぶ縁起物とされている。また、同じように白黒の鳥、ハハチョウは「八」の字の白い模様が翼にあることから末広がりを連想させ、吉祥の鳥とされている。如水宗淵の『叭々鳥図』のように古くから多くの作品が作られている。
『百鳥図』と『鳥のコンサート』のように国を問わず似た作品がある一方で、同じ鳥や似た鳥でも文化により捉え方が異なるのもまた興味深い。
私が思う、鳥を描く魅力は下のとおりである。
・鳥の色鮮やかさが絵の華やかさに貢献する。
・空まで鳥でいっぱいに埋め尽くし、賑やかな画面を作ることができる。
・貴重な鳥はそれ自体の珍しさが未知への憧れとして魅力になる。
・鳥の持つ象徴的意味合いで絵に深みを与えることができる。
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松本 亮平(まつもとりょうへい)
画家/1988年神奈川県出身。早稲田大学大学院先進理工学研究科電気・情報生命専攻修了。
2013年第9回世界絵画大賞展協賛社賞受賞(2014・2015年も受賞)、2016年第12回世界絵画大賞展遠藤彰子賞受賞。2014年公募日本の絵画2014入選(2016・2018年も入選)。2016年第51回昭和会展入選(2017・2018年も入選)。2019年第54回昭和会展昭和会賞受賞。個展、グループ展多数。
HP https://rmatsumoto1.wixsite.com/matsumoto-ryohei
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