コラム

温故知新 vol.11 「大作に学ぶ」

文=松本亮平

大作のテーマは一般的に2つあるように思う。1つは多くの人や生き物が描かれた群像画、もう1つは大自然や大型動物など大きな対象物である。それぞれの例に伊藤若冲の「樹花鳥獣図屏風」、「象と鯨図屏風」が当てはまる。どちらも伊藤若冲の傑作だが描き方は大きく異なる。

「樹花鳥獣図屏風」は動物の群像をテーマとしており、私が最も影響を受けた絵の一つである。リスやウサギなど小動物から大きなゾウまで、大変多くの動物が描きこまれているが雑然とした印象はない。水辺の青色が印象的で開放感がある。青を基調色としながら花や果物の赤色が少量リズム良く配置され、画面に元気の良さも表れている。左隻の主役である鳳凰も含めて、全ての要素が右隻の白い象を引き立てているように思う。登場する動物は多いが、白い象が画面で一番明るいため、遠くから見てみると白い象だけが神々しさを伴って浮かび出てくる。近くに寄って細部に目を移すと升目描きなど小技が効いていて飽きることがない。

伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》(右隻) 静岡県立美術館蔵

伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》(右隻) 137.5×355.6cm 静岡県立美術館蔵

伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》(左隻) 静岡県立美術館蔵

伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》(左隻) 137.5×366.2cm 静岡県立美術館蔵

※現在は公開していない。展示時期についてはこちらを参照。
静岡県立美術館デジタルアーカイブ 伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》 
https://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/archive/jakuchu/

一方で「象と鯨図屏風」は大型動物を一体ずつ描いた極めてシンプルな構成である。2015年サントリー美術館で開催された展覧会『若冲と蕪村』に私はこの絵を見に行った。オープンと同時にこの絵の前に行き、他の鑑賞者の方が来るまで20分近く間近で見続けた。その後、2021年の府中市美術館の展覧会『動物の絵』で再会した際にもいくらでも見続けることができた。まず私の目を惹きつけたのは鯨の潮吹きの部分である。鯨の黒と潮の白の強い明度対比の効果だろう。その力強さから生命のエネルギーを強く感じることができた。また、白い象の背景はグレーに隈取られており神秘的に浮き出して見えてくる。さらに余白の多い大胆な構図、筆致の美しさによって今にも動き出しそうな印象を与えている。

伊藤若冲《象と鯨図屏風》(右隻) MIHO MUSEUM蔵

伊藤若冲《象と鯨図屏風》(右隻) 159.4×354.0cm MIHO MUSEUM蔵

伊藤若冲《象と鯨図屏風》(左隻) MIHO MUSEUM蔵

伊藤若冲《象と鯨図屏風》(左隻) 159.4×354.0cm MIHO MUSEUM蔵

※現在は公開していない。展示時期は未定。

ここからは私の尊敬する現代の画家の大作からも学んでいきたい。
2021年に平塚市美術館で開催された『物語る 遠藤彰子展』。500号以上の大作が数多く並ぶ大迫力の展覧会であった。神話的とも現代的とも言える寓意をはらんだ群像画である。中でも「黒峠の陽光」には画面右手前から左奥に走る白く輝く河によって画面に強く引き込まれた。河と陸地の大きな明暗の構成により遠くから惹きつけられて、近くによると人間と動物、さらには怪物たちによる物語に飲み込まれていく。遠藤彰子氏の世界に没入する体験ができた。

遠藤彰子《黒峠の陽光》画像

遠藤彰子《黒峠の陽光》 333.3×497.0cm

遠藤彰子《黒峠の陽光》(部分)画像

遠藤彰子《黒峠の陽光》(部分)

国立新美術館で先日開催された『第96回 国展』。佐々木豊氏の出品作「泳ぐ人」は展示室に入った途端、圧倒的なインパクトで目に飛び込んできた。実際のサイズを極端に逸脱した大きな顔に驚かされると同時に自然に笑顔になれた。また、衝撃的なまでのおじさんの大きな顔に対して、背景の緑の海とピンクの小魚の色彩は美しく上品に調和しており、そのギャップも楽しい。

佐々木豊《泳ぐ人》画像

佐々木豊《泳ぐ人》 227.3×343.9cm

佐々木豊《泳ぐ人》(部分)画像

佐々木豊《泳ぐ人》(部分)

上記4点の大作は、鑑賞者を絵の世界に引き込み、絵の中で楽しませる魅力を持っている。これらの大作から私なりに学んだ具体的な方法論は下の3点である。

・大きな画面構成。若冲の大きな白い象、遠藤氏の白く光る河、佐々木氏の大きな顔が参考になる。
・色彩の統一感。画面を支配するメインカラーと少量のアクセントカラーで構成する。
・近くで見ても楽しめること。細部の描き込み、筆致の味わい、描法、絵肌の工夫などである。

「千客万来」アクリル 100F

松本亮平《千客万来》 130.3✕162.0cm

 

松本 亮平(まつもとりょうへい)
画家/1988年神奈川県出身。早稲田大学大学院先進理工学研究科電気・情報生命専攻修了。
2013年第9回世界絵画大賞展協賛社賞受賞(2014・2015年も受賞)、2016年第12回世界絵画大賞展遠藤彰子賞受賞。2014年公募日本の絵画2014入選(2016・2018年も入選)。2016年第51回昭和会展入選(2017・2018年も入選)。2019年第54回昭和会展昭和会賞受賞。個展、グループ展多数。
HP https://rmatsumoto1.wixsite.com/matsumoto-ryohei
REIJINSHA GALLERY https://www.reijinshagallery.com/product-category/ryohei-matsumoto/

[information]
静岡県立美術館
・住所 静岡市駿河区谷田53-2
・電話 054-263-5755
・時間 10:00~17:30(入室は17:00まで)
・休館日 月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)
・URL https://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/

MIHO MUSEUM
・住所 滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300
・電話 0748-82-3411
・時間 10:00〜16:00(最終入館15:00)
・休館日 春季・夏季・秋季、各開館期間中の月曜日(祝日の場合は各翌平日)
※詳細は公式サイト内開館カレンダーをご確認ください
※入館には事前予約が必要です
・URL https://www.miho.jp/

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