日本の美をテーマに、写実的な油彩画を描く柿原康司。芸術の都・パリでこの秋に開催された「第7回 サロン・ド・アール・ジャポネ 2023」への参加は、彼にとって初めての海外での作品展示となった。この展覧会で、柿原の作品『彩』が見事グランプリに輝いた。
柿原が油彩を本格的に学び始めたのは、高校生のとき。その後、大学受験のためにすいどーばた美術学院に2年通い、以降は独学で制作を続け、国内の公募展で数々の受賞を果たしている。
このインタビューでは、海外展に参加した感想や、日頃の制作などについて紹介する。
受賞作『彩』について
──作品のコンセプトを教えてください。
海外に出展するということで、日本的な要素を取り入れようと思って錦鯉を描きました。おそらくヨーロッパだと錦鯉を見る機会はそんなにないのではないかと思ったので。今回の出展に向けて、より緻密に描くことを意識した作品です。
──来場者からは、「素晴らしい技術と色のコントラスト。最初は写真かと思った」との声もあったようです。あのリアルな描写には特別な工夫やこだわりがあるのでしょうか?
フランスの方に錦鯉を観ていただきたいという思いがあったので、今回はあえていつもよりリアリティを強く意識して描きました。
──実際に自分が鯉を見たときの経験や感動を伝えたいという思いもあったのでしょうか。
そうですね。錦鯉は自分が住んでいる田舎でもよく泳いでいるのを見かけるので、身近な存在です。今回は制作のために、色々な種類の鯉を見に行きました。それを写真に撮って参考にしながら、紅白をこのあたりに泳がせようとか、鯉それぞれの色や模様の配置を考えました。ほかに意識したのは、落ち葉を描いて季節感を表現したことです。
──今回の作品ではどのようなところに苦労しましたか?
苦労したのは構図です。配置は悩みました。落ち葉の数や、どこに散らすかも考えました。あんまり落ち葉の数が多いと、鯉の色彩が死んでしまうし、ないと季節感が出ないし、そのあたりが苦労したところです。水の中だから、本当は錦鯉自体はもっと暗くならないといけないんだけど、そうすると全体的に暗くなって、落ち葉の色のほうが浮いてしまう。なので、事実は度外視して、鯉を上面にもってきました。
──油彩で制作しながらも、作品には和を意識しているとのことですが、それはなぜですか?
油絵具は西洋の画材ですが、その油彩を使って日本的な雰囲気を醸し出すように制作するのが自分のテーマです。もともと日本画の世界観がとても好きだったのですが、岩絵具を使ってみると色が淡白というか、薄さを感じました。私にとっては油絵具のほうが発色と色の深さが表現しやすいので、油彩画でどれだけ日本的な雰囲気を出せるか工夫しています。以前は色々なものを描いていましたが、7年ほど前にこのテーマに固まりました。
──日本的なものに魅力を感じるきっかけがあったのでしょうか?
京都の日本画家・久保義浩氏と毎年1回、大阪でコラボ展を開催している影響があるかもしれません。12〜3年ほどのお付き合いになります。絵を習うことはないですが、世界観や美意識に学ぶところがあります。
──制作課程で、最も大切にされていることは何ですか?
「こういうものを描きたい」というイメージです。そのイメージが出てこないことには描くのが難しいので。常日頃、ぼーっとしていいイメージを描き続けることかな。イメージが浮かばないときは思い切って気分転換をして、しばらく息抜きをしてから制作に戻ります。難しいことはあまり考えていないんです。侘び寂びや花鳥風月など、日本的な美しさを感じなくなったらだめなので。
日本画の展覧会に足を運ぶこともあります。
──作品を観る人にどのようなことを伝えたいですか?
文化的な面で、日本は西洋のものを取り入れることが多いですけど、心の世界の中では、日本の本来の美しさを再認識してもらいたいと思って描いています。
サロン・ド・アール・ジャポネでの成果
──「第7回 サロン・ド・アール・ジャポネ 2023」でグランプリを受賞されたときの率直な気持ちを聞かせてください。
最初は驚きました。国内の公募展には今までも結構出していたんですけど、海外の方に審査していただく機会は初めてで、チャレンジしてみようという気持ちで出展しました。作品が海外で展示されるのも初めてですが、このような評価がいただけて嬉しいです。
──この展覧会に出展しようと思った動機は何でしょうか?
海外の方に作品を観て評価していただける良い機会だと思いました。
実際に出展したことで、得るものが大いにありました。海外の方も私の絵を観て感動してくださるんだな、というのがわかったのが良かったです。抽象作品が多いなか、具象も大切ですよね。
──アーティストとしての目標を教えてください。
来年の秋には東京での展示を計画しています。そのために構想を練ってこつこつと作品を描き溜めていこうと思います。
海外は遠いので、自分自身が直接渡航するのは難しいと思いますが、チャンスがあれば海外でも展示をやりたいという気持ちはあります。近場で言えば、台湾やシンガポールですね。
先に目標を決めることで頑張れるタイプなので、これからも積極的に予定を入れていきたいと思います。
2024年には、3月に「第8回 サロン・ド・アール・ジャポネ 2024」、5月に大阪で開催される「第29回 オアシス 2024」への出展が決まっている柿原。今後も彼の新しい作品に出会えるのかと思うと胸が踊る。新作の構想もすでに固まりつつあるようだ。
「第7回 サロン・ド・アール・ジャポネ 2023」についてはこちら
柿原 康司 Koji Kakihara
1967年
大阪府茨木市に生まれる
2012年
月宙展(福岡)
2013年
水月物語展(宮崎)
2015年
移儚静想展(宮崎)
写真と絵画コラボ展(大阪)
2017年
3 people Exhibition 「日本画・油彩画・写真」三人展(兵庫)
2018年
東久邇宮国際文化褒賞受賞作家 久保義浩氏とのコラボ展(兵庫)
2019年
東久邇宮国際文化褒賞受賞作家 久保義浩氏とのコラボ展(大阪)
2023年
第7回サロン・ド・アール・ジャポネ 2023(リンダ・ファレル・ギャルリー/フランス、パリ)
E=art2展 kou kakihara × katsuyuki aratake(クスナミキ・ギャラリー/宮崎)
※その他、2年ごとに宮崎県日南市で個展を開催
現在 宮崎県日南市で制作
受賞歴
宮崎県串間市美術展 新人賞
日韓書藝名家日本展 衆議院議員賞
ブルネイ・日本芸術交流展 友好賞
国際親善美術大賞展 栄誉賞、愛知県県教育賞
亜細亜芸術院展 国際賞
ロシア・日本芸術交流展 金賞
アート・フェイス絵画展 衆議院議員特別賞
第7回 サロン・ド・アール・ジャポネ 2023 グランプリ