コラム

心鏡 #21
2024年10月15日

文=小松美羽

黄金の国ジパングで、時代を駆け抜ける!!

すっと深い瞑想状態に入った時、JIT(第三の目と呼ばれる位置に置いたJIT。非物質的なものを見るときに必要なもので、眉間に固定した状態)を使って見えてくるのは自分だけのミニシアター。スクリーンに映る映像が自分の意思とは関係なく広い宇宙空間のような、真っ暗だけど確かに存在する場所に導いていく。そうするといつの間にか仮想空間にフルダイブしたような感覚に近い状態となる。その空間には一歩進むと奈落の底に落ちてしまいそうな恐ろしさがある。しかし、何も考えず無邪気に闇の中へと足を踏み出した時、まるで黄金の輝きのような世界に包まれていて一体化していくのだ。

虫が光に集まってくるように、暗い海で魚が自ら発光するように、そしてそれを獲物が求めてしまうように、光は生命の根源を揺さぶるのかもしれない。
人は自分で動かすことができる蝋燭やライトを発明し、洞窟や夜の闇の中でも先へ進む手段を手に入れた。光は希望だとよく例えられるが、確かにそうだなと思う。

「ジパング展」会場風景

「ジパング展」会場風景

神聖を表現する絵画において、黄金や光などの輝きを用いて描く手法は、西洋にも東洋にも共通して見られる。
私自身も金の絵の具や金箔を用いた作品を多く描いているのは、きっと金を描くことで生じる光の神聖さに霊性が突き動かされているからなのだと思う。
その感覚はきっと、老若男女・性別や年齢や時代を問わず魂を揺さぶるのかもしれない。
黄金から生じる未知の好奇心は「東方見聞録」からも感じることができる。中世を生きたマルコ・ポーロは日本を訪れることが叶わなかったけれども、黄金の国ジパング(日本のことであるという説がある)へどんな夢を馳せたのだろうか。

有田焼作品《⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎》と小松

自らの作品《悪を見るな ー山犬ー》と対面する小松

話は一旦現代に戻り、私は数年ぶりに佐賀県に足を踏み入れていた。有田焼の制作で何度も足を踏み入れていたけれども佐賀県立美術館に行くのは初めての事だった。というのも、2024年8月24日から10月20日の期間、佐賀県立美術館にて「ジパング―平成を駆け抜けた現代アーティストたち―」という特別展が開催中で、上海から東京に一泊して羽田から佐賀へ飛行機を乗り継ぎ、この展覧会を鑑賞すべく降り立った。企画協力ミヅマアートギャラリーで、展覧会にはアーティスト29名が参加し44点の作品が展示されている。その29名の中の1人に私も嬉しく光栄なことに選んでいただけたのだった。

ミヅマアートギャラリー 三潴末雄

ミヅマアートギャラリー 三潴末雄(撮影:野口博)

ジパング展の企画者であるミヅマアートギャラリーの三潴末雄さんとの出会いはシンガポールで開催されたアートフェアの会場だった。第一印象はとてもオシャレで豪快で、一方的な迫力が強かった。なんとなく雰囲気から東京出身かな?と思っていた。その後「いや、『三潴』という地名は福岡県三瀦郡三瀦町だから九州の出身だよ」と他者から言われ、そうなのか、出身は九州なのか!っと思い、勝手にあの豪快な源は九州のエネルギーだったのか・・・なるほどと納得していたのだが、この記事を書くために改めてネットで経歴を調べたところ・・・三潴さんは西荻窪の生まれだった。西荻窪出身なのか、と分かった瞬間に西荻窪っぽいなと思ってしまうから人の価値観とはあやふやで移ろいやすく不確かなものである。しかも、私は上京して初めて住んだところが杉並区なので勝手に親近感が湧いてしまっていた。
当時は電車代を浮かせるために自転車で都内を走り回っていたので、西荻窪も何度も訪れた思い出の場所の1つだ。荻窪という名前の響きが好きだったのをよく覚えている。

テープカットの模様

「ジパング展」のテープカット(右端が三潴、左隣は山口祥義佐賀県知事)

話を元に戻すと、アーティストにとって自分の創作物を理解してくれる人との出会いは最高の宝だ。芸術は多くの人が関わることで成り立っている。多くのプレーヤーが各々の仕事をして1が出来上がっていく。1が100になり1,000になり数え切れない拡散を果たしていく。心に作用する連鎖が数珠つなぎとなっていく。だからこそ、起点を作ってくれる他者の存在は偉大だ。
三潴さんが「ギャラリストが作家を育ててるんじゃない、作家に私たちが育ててもらってるんだ!」とアート番組の出演時に言っていたのを思い出した。作家もギャラリストに育ててもらった御恩を忘れない、だからお互い信頼し合えるのだろう。

ャラリートークの模様

大盛況となった三潴のギャラリートーク

作家にとって支えてくれる人は光だ、売れない頃なんて特に黄金に輝いて見えるだろう。
絵描きという名の冒険家が探し求めるジパングの形は、船に乗って大海原に出ないと知り得ない。ネット社会だというけれど、ネットで航海方法を見ただけで海に出航するのは難しいように思う。本物の実存に触れる体験と知的好奇心への突き上げが、旅へ出る我々の生命を一番に支えてくれるだろう。
人は自らの魂に響く霊性的体験を求める、だから本物を見に美術館へ行くのだ。

「ジパング展」会場風景

「ジパング展」会場風景

今回は個展ではなくグループ展での作品展示で、1人の鑑賞者となって美術館の展示と触れ合っていくと、個展では溢れてこなかった初めての感情に出会えた。
たくさんの作家さんたちのエネルギーを作品から感じたからこそ、同列に展示されている私の作品を見たときに「私、私の作品が大好きだ!」って、素直に感じたのだ。

作品を鑑賞する親子

小松の作品《精霊たちの目覚め》を鑑賞する親子

グループ展だからこそ、学べることがある。けれど、有意義なグループ展に参加するには自薦では難しい。キュレーション側から選んでいただかなくてはいけないからだ。作家同士が集まって仲間うちでグループ展をするやり方もある。作家主体ではなくアートにおけるプレーヤーの皆さんが作り上げる企画に選ばれるためには、何度も荒波を乗り越えた、創作が好きな冒険者の中のほんの一部にしか巡ってこないチャンスなのかもしれない。

「ジパング展」会場風景

「ジパング展」会場風景

平成を駆け抜けた現代アーティストたち29人は、今もなお駆け抜け続けている。
肉体の年齢ではなく輪廻を繰り返してきた魂の年齢で考えたら、平成から令和は一瞬の出来事なのかもしれないが、魂の作用はこの一瞬の芸術的体験のおかげで何千年先・・・いや何億年・・・いや・・・数え切れない歳月まで影響し続けるのだろう。

平成の年表を振り返る小松

平成の年表を振り返る小松

マルコ・ポーロが黄金の国ジパングにたどり着くことがなかったのは残念なことだが、もしかしたら転生したマルコ・ポーロが無意識にこの展示を見にきているかもしれない、いや、そもそも関わっているかもしれない。
そうやって生命は肉体の限界を超えて出会い続けるのだと思う。

やはり芸術って最高だね。
「ジパング展」看板


特別展「ジパング―平成を駆け抜けた現代アーティストたち―」

佐賀展 10月20日(日)まで/佐賀県立美術館で開催
https://saga-museum.jp/museum/
広島展 11月2日(土)〜12月22日(日)/ひろしま美術館で開催
https://www.hiroshima-museum.jp

※広島展の詳細はこちらのページをご覧ください。