会場:フジフイルム スクエア 写真歴史博物館 | 会期:2023年1月4日(水)~3月29日(水) |
1960年代から70年代にかけて独自の展開を見せた日本の写真集は、近年、海外でも大きな注目を集めている。中でも、約30年間の写真家活動の中で8冊の写真集(1冊以外はすべて自費出版)を発表した鈴木清(1943〜2000年)は、表現媒体としての写真集を唯一無二の次元に昇華させた写真家だ。そんな彼の作品展が、フジフイルム スクエア 写真歴史博物館で開催される。
福島県好間村(現・いわき市)の炭鉱町に生まれた鈴木は、高校卒業後、漫画家を志して上京するも、ほどなく絵の道を断念。しかしそれが鈴木にとっての大きな転機となった。大事に持ってきていた土門拳の写真集「筑豊のこどもたち」に改めて惹かれ、絵やグラフィック、漫画などと共通する“手によって創造する視覚分野”である写真に可能性を見出したのだ。そこで東京綜合写真専門学校入学し、1969年に卒業した後、自身の原風景でもある各地の炭鉱を撮影した「シリーズ・炭鉱の町」を発表し、写真家としてデビューした。
福島(いわき)時代に、定時制高校に通いながら印刷所で働いていた経験を活かし、1972年には装丁やレイアウトまですべて自ら手がけた初の写真集『流れの歌 soul and soul』を自費出版した鈴木。この『流れの歌 soul and soul』をはじめ自らの手で綿密に編んだ多くのダミー本(写真集に使う作品のコピーやキャプションなどをレイアウトし本の形に綴じたもの。写真集の設計図のような存在)で試行錯誤を繰り返した後で世に提示された彼の8冊の写真集は、そのいずれもが五感の歓びを呼び覚ますような強い存在感を放っている。
今回の展覧会タイトル『天幕の街 MIND GAMES』は、3冊目の自費出版となった1982年刊行の同名写真集からとったもの。この写真集は「サーカスの天幕」「A・Q・U・A水声」「腐爛風景」「路上の愚者・浦崎哲雄への旅 1979-1981」の4部で構成されており、幼い頃、父親とともに見に行ったサーカスの記憶に由来したタイトルだという。サーカスの人々や路上生活者といった「漂泊者たち」のイメージは、鈴木清の記憶と夢を辿る旅のようでもあり、見る者を夢と現実の狭間に誘う。刊行の翌年、1983年にはこの写真集および同名の展覧会により第33回日本写真協会賞新人賞を受賞した。
また、『天幕の街 MIND GAMES』は、それまで、自身ですべて手がけていた作業工程のうち、デザインと装丁部分を、初めてデザイナー・鈴木一誌に任せることを試みた写真集としても重要な意味を持つもの。写真の組み合わせによって、写真の間から見えてくるものを大切にした鈴木清にとって、第三者の視点による再構築は自らの写真に新たな世界を発見するきっかけとなった。
この展覧会では『天幕の街』所収作品約40点と併せ、本人の手による貴重なダミー本が展示される。このダミー本は、生前刊行された写真集のためにコピー本を綴じ合わせて制作されたものだ。
ぜひ会場に足を運んでほしい。
鈴木 清 (すずき きよし/1943〜2000)
1943年 11月30日福島県石城郡好間村(現・いわき市)に生まれる
1965年 福島県立平第二高等学校(定時制)を卒業後、漫画家を目指し上京
1969年 東京綜合写真専門学校卒業。『カメラ毎日』に「シリーズ・炭鉱の町」を発表(~1970年、全6回)。以後、看板描きをしながら写真家活動を続ける
1972年 『流れの歌 soul and soul』(自費出版)刊行
1976年 『ブラーマンの光 THE LIGHT THAT HAS LIGHTED THE WORLD』(自費出版)刊行
1982年 『天幕の街 MIND GAMES』(自費出版)刊行
1983年 『天幕の街 MIND GAMES』写真集、個展に対して第33回日本写真協会賞新人賞受賞
1985年 東京綜合写真専門学校講師に就任
1988年 『夢の走り S STREET SHUFFLE』(自費出版)刊行
1991年 『愚者の船 The Ship of Fools』(アイピーシー)刊行
1992年 『天地戯場 SOUTHERN BREEZE』(自費出版)刊行。個展「母の溟」に対して第17回伊奈信男賞受賞
1994年 『修羅の圏 Finish Dying』(自費出版)刊行
1995年 第14回土門拳賞受賞
1997年 手摺りリトグラフによるポートフォリオ『INDIA SONG』(制作:WORKS・H)刊行
1998年 『デュラスの領土 DURASIA』(自費出版)刊行
2000年 3月23日、死去。享年56
[information]
フジフイルム スクエア 写真歴史博物館 企画写真展
鈴木清写真展「天幕の街 MIND GAMES」
・会期 2023年1月4日(水)~3月29日(水)
・会場 FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア) 写真歴史博物館
・住所 東京都港区赤坂9-7-3 東京ミッドタウン・ウェスト1F
・電話 03-6271-3350(10:00~18:00)
・時間 10:00〜19:00(最終日は16:00まで、入館は終了10分前まで)
・休館日 会期中無休
・入館料 無料
・URL https://fujifilmsquare.jp