東京・日本橋のREIJINSHA GALLERYでは2度目となる松本亮平の個展が、4月5日にスタートする。それに先立ち百兵衛編集部は、個展を控えた松本に今の思いを聞いた。
「温故知新」──時代を超えたまなざし
──2022年のREIJINSHA GALLERYでの個展に引き続き、今回の個展も「温故知新」がテーマですね。これは「美術屋・百兵衛ONLINE」で松本さんが連載しているコラムのタイトルでもありますが、改めてこのタイトルについて教えてください。
温故知新という言葉には、過去の作家が見て描いた対象を、私も見て感動することで、時代を超えて同じ価値観を共有できるという意味があると思っています。伊藤若冲や円山応挙が見ていたものを私が見て、彼らと同じように「面白い」とか「かわいい」と感じることで、時代が繋がっているような感じがします。温故知新の、そういったところに魅力を感じています。
──前回のREIJINSHA GALLERYでの個展から、何か変化はありましたか?
これまでは、絵画の技術や構図など、技法的なことを作品から学び、多くのオマージュ作品を描いてきましたが、それだけではなく、過去の作家たちがなぜこの絵を描いたのかなど、見えない部分に対する意識が高まったように思います。
例えば伊藤若冲が鶏を描いていたり円山応挙が鯉を描いていたりする背景にある、文化的なこと、社会的なことを考えながら描けるようにだんだんなってきたかなと。それを踏まえて自分だったらどういう絵を描くのか、ということを少しずつ意識の中に入れているような感じです。私の家には猫が3匹いて、その子たちが走り回っている様子から元気をもらえるので、若冲にとっての鶏は、私にとっては猫かなと思います。メインビジュアルに使用した作品にも猫をたくさん描きました。
──意識の変化は、何がきっかけだったのでしょうか?
自分の考えを百兵衛のコラムで伝えるために、さらにもう一歩踏み込む必要が出てきたからです。見たものをそのまま「かわいい」「綺麗だ」「豪快だ」と書くだけでは足りないので、その先まで深く考える。そういうことを今回の個展では意識しました。
今まで通り、過去の作家へのオマージュ作品も作っているんですけど、「作家への共感」という核の部分が強くなったように思います。
──今回描いた作品はどんな古典画を参考にされたのでしょう?
100号の『Recreation -鳥獣花木図-』が、伊藤若冲の『鳥獣花木図』です。小品にも『動植綵絵』をオマージュしたものがあります。直接的なオマージュという意味では伊藤若冲が一番多いかな。
それから、「諺猫」という猫で諺を表現したシリーズや、100号の『Recreation -鳥獣花木図-』にも、実はいろんな諺が入っています。猫の足元に杓子があって「猫も杓子も」、小判が落ちていて「猫に小判」などを描きました。それは、ブリューゲルの『ネーデルランドの諺』という大作を、私が頭の中で常にイメージしているからです。そういう意味では、絵そのものがブリューゲルへのオマージュといえますね。
──松本さんの作品は、日本美術と西洋美術の要素が交わるところがとても興味深いです。
百兵衛のコラムではクロード・ロランの風景画にも触れていましたね。
完全な風景画ではないですが、『茅の輪くぐり』という作品には、かなり大きな面積で風景を描きました。
動物が多すぎて風景画かどうか分からないのですが(笑)、アフリカゾウとアジアゾウが登場する作品『再会』も、かなり綿密に細かく風景を描きこんでいます。
純粋に楽しめる絵画を目指して
──今回はどんな動物が登場するのでしょうか?
猫は多いですが、世界中の動物を描いたシリーズでは、先ほども言った『再会』を今回出品します。
──象については、コラムでも執筆されていましたね。
はい、そうです。この絵はアジアの生き物とアフリカの生き物が左右からやってきて真ん中にある一本の道で交わり、進化の過程で一度別れた動物たちが「再会」しているというもの。見る人によってはいろいろな楽しみ方があるのかなと思います。
他にもコラムで執筆したテーマだと、「空想上の生き物」も個展で発表します。その出展作「龍虎図」で龍は、墨使って描いており、それを眺めて遠吠えする虎にはアクリル絵具を使いました。
──墨を使うというのは、松本さんの作品としては新鮮に思います。
そうですね、今までとはちょっと変わっている絵です。これまでも墨を使って絵を描いてきたのですが、墨の分量が今までより多い。
墨については、2019年に昭和会賞を受賞後に使ってきたのですが、前回のREIJINSHA GALLERYでの個展が終わった頃からしっかりと勉強しようと思いまして。それまでは墨汁を使っていたのですが、今は墨をしっかり磨って使っています。
紙に描くわけではないので水墨画的なものとは違い、少し特殊な使い方です。オリジナルの技法であるため、誰かに習うという性質のものではなく、いろいろと試しながらやってきました。絵の下地をピカピカに磨くと墨を弾いてしまうので、ちょうどいい具合のざらざら感を目指す、というような。
──ところで、今回の個展ではワークショップをおこなうそうですね。
松本さんにとって、ワークショップにはどういった意味があるのでしょうか?
私は美大を出ていないので、昔からずっと一緒に描いているという意味での作家仲間がいないのです。ワークショップに来る方には、本格的に絵を習ったことがない方や、描いたことはないが絵を観るのは好きという方が多いので、そういった方たちの描き方は刺激になります。私にとっての絵描き仲間というような感じです。
ワークショップでは、私が思いついたことのない、想像していなかったような描き方をする方にも出会います。そういう姿を見ると、「なるほどな、試してみようかな」と思います。
道具にも影響されますね。私は普段柔らかい筆を使っているので、豚毛の硬い筆を使ってガシャガシャと描いているような人を見ると「あ、こんなのもいいな」と思ったり。
それから、色もそうですね。私は怖くて原色をあまり使わないですけど、例えば青いライオンなんかがいても意外といけるなとか。
慣れてくると、どうしても想像したことをリアルに再現できてしまうので、そういった経験はためになります。
いろいろなことを一緒に発見していく仲間のような感覚がありますね。
──今後について教えてください。どういったことに挑戦していきたいですか?
前回のインタビューで「大きい絵に挑戦したい」と言ったのですが、100号以上のものも描きたいと、今も考えています。
例えば、象を描く時には、ある程度のサイズがあった方が自然かな、と。大きさがあった方が自然に感じられる絵もあるので、生き物のサイズに合わせて描ける絵描きになりたいと思います。
それから、私はいつも生き物や自然物を描いているので、取材をしっかりしたいと思います。今は家の近所で鯉などの魚を観察することが多いですが、生き物の性質は地域によって違うので、日本国内に限らず、生き物の取材をしたいな、と。
──最後に、来廊される方にメッセージをお願いします。
純粋に楽しんでいただけるといいなと思っています。自分の好きな生き物を見つけて楽しんでいただきたい。これまでギャラリー行ったことがない方や、絵画は難しくてよく分からないというイメージをもっている方にも、動物園や博物館に行くような感覚、絵本読むような感覚で来ていただきたいと思います。
ここまで話してきたように、「こんな経緯があってこういう絵を描きました」という話が分かっているとより面白いのは前提ですけど、ギャラリーに入ってぱっと見て「なんかおもしろい」とクスッとしてもらえるといいかな。まずは楽しんでほしい。気軽に見てほしいです。
幼い頃から生き物への興味を抱き続けてきた松本亮平の作品は、全ての人の心を和ませる魅力に満ちている。それは、生き物を愛する彼のまなざしによるものだ。
ぜひ会場で松本作品の中の、生き生きした動物たちの姿を観ていただきたい。
松本亮平
Ryohei Matsumoto
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1988年
神奈川県生まれ
2011年
早稲田大学先進理工学部電気・情報生命工学科卒業
2013年
早稲田大学大学院先進理工学研究科電気・情報生命専攻修了
2016年
REIJINSHA GALLERY’S EYE(REIJINSHA GALLERY/東京)
第12回世界絵画大賞展遠藤彰子賞受賞(東京都美術館)
2017年
Zoo of Arts/アートな動物園(REIJINSHA GALLERY/東京)
2018年
PLAS 2018 CONTEMPORARY ART SHOW(韓国・ソウル)
Art Expo Malaysia 2018(マレーシア・クアラルンプール)
2019年
第54回昭和会展昭和会賞受賞(日動画廊/東京)※’16、’17、’18年出展
Art Elysees 2019(フランス・パリ)
2020年
個展「生命の記憶」(SILVER SHELL/東京)※’16、’18、’19年開催
猫会議2020(REIJINSHA GALLERY/東京)※’19年出展
BAMA(韓国・プサン)
2021年
ART BUSAN 2021(韓国・プサン)※’19年出展
2022年
3人展(Galerie Nichido/フランス・パリ)
個展「昭和会賞受賞記念 松本亮平展」(日動画廊/東京)
佐々木豊と8人展(飯田美術/東京)※’16~’21年出展
市制90周年記念展 わたしたちの絵 時代の自画像(平塚市美術館/神奈川)
個展「温故知新」(REIJINSHA GALLERY/東京)
2023年
個展「松本亮平展-RECREATION-」(福岡日動画廊)
BANK ART FAIR 2023(韓国・ソウル)
ART FAIR DAEGU 2023(韓国・テグ)
2024年
個展「温故知新Ⅱ」(REIJINSHA GALLERY/東京)
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現在、神奈川県にて制作
■Instagram @r.matsumoto60
■オフィシャルサイト https://rmatsumoto1.wixsite.com/matsumoto-ryohei/
■REIJINSHA GALLERY アーティストページ https://www.reijinshagallery.com/product-category/ryohei-matsumoto/
[information]
松本亮平 温故知新Ⅱ
・会期 2024年4月5日(金)~4月19日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜、祝日
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery