ー注目の若手女性画家ー
今回は、在学中から積極的に活躍している若手女性作家3人を紹介する。
一人目は東尾文華。1997年大阪府生まれ。2020年日本大学芸術学部美術学科絵画コース版画専攻卒業、2022年同大学院芸術学研究科博士前期課程造形芸術専攻版画分野修了。2020年第45回全国大学版画展町田国際版画美術館賞(収蔵賞)、2021年モレスキン アートコンペティション2021最優秀賞、2022年日本大学芸術学部湯川制賞など数々の実績を残している。
彼女の作品との出会いは昨年12月。ギャルリー東京ユマニテ bisの案内状に惹かれて見に行ったのだが、会場に展示されていた版画の大作と壁面全体に貼られたはがき大の無数のドローイングに圧倒された。ファッションイラストのような作品には欲しいと思うものが何点もあった。
彼女は女性をテーマに、木版画と銅版画の併用で作品を制作していて、大学3年生の夏頃から、この2つの版種の最低限の知識を応用し、はがきサイズから制作をはじめ、試行錯誤を繰り返し研究を重ねてきたとのこと。
「私の中で、木版画は木の温もりが人の肌の温もりや優しさに繋がっており、さらに水性木版を用いることでより瑞々しく、優しい印象を作り出せると考えています。特に自作の大きな水性木版画作品では、ぼかしや微妙な違いの色味を摺り重ね柔らかい印象を作り、アクセントになる様な色も加えながら、強さや自信が湧き出てくるインパクトのある作品になる様こだわっています。そして銅版画では、シャープな線、ディープな線、細かい描写で繊細さ、曲線美、様々な方向から交わる線の重なり、それらをねっとりとしたインクで紙に刷りとることで、インクが盛り上がり、うちに秘めた複雑な感情を表現することができると考えています。この二つを併用することで自作で求めているイメージに繋げることができ、自身の制作スタイルを得ることができました」と言う。
二人目は磯崎海友。1999年静岡県袋井市生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科版画専攻を卒業、同大学院美術研究科博士前期課程絵画専攻版画研究領域に在学中。彼女も在学中から活躍し、2021年日本版画協会 第88回版画展入選、第46回全国大学版画展優秀賞。2022年第75回女流画家協会展女流優秀賞、第47回全国大学版画展優秀賞などの実績を上げている。
彼女の作品を最初に見たのも2023年1月のギャラルリー東京ユマニテ bisでの個展だ。彼女の場合は案内状の作品がやや不気味だったが、会場に入ると女学生が追いかけている日本画のような作品があり、この二つの作品が依存症を表現しているということで納得できた。一方でぬいぐるみの被り物をしたかわいい子どもの作品もあり、多様な表現にも興味があった。
彼女によると「制作技法はリトグラフで、手で描いたものがそのまま刷れる自由さと、版画ならではの面表現を両立できるところが好き」とのこと。
多様性を感じたことについては「『HOLICとそれによる弊害』がテーマの作品は、イメージ作りにおいては石田徹也や会田誠など、色彩においてはホックニーやピーター・ドイグなどの作家や、タイや中国の美術などから影響を受けています。『animals』シリーズは、音楽や映画やキャラクターなど、主に国内外のサブカルチャーから強い影響を受けています」と語っている。
三人目はハヤカワミサト。1998年埼玉県生まれ。2022年東京学芸大学卒業、同大学大学院教育学研究科在学中。2022年には第40回上野の森美術館大賞展入選、第77回春の院展初入選、第81回日本画院展佳作賞受賞、神山財団芸術支援プログラム9期生と在学中から活発に活動。
彼女の作品には三菱アートゲートや院展などで注目し、2023年1月に銀座中央ギャラリーで開催した「山本冬彦推薦作家展14」に参加してもらったが、余白を設けたクリムトのような作品に面白さを感じた。
「日本画材の良さを活かした、“宝石箱”のような絵を常に意識して制作しています。クリムトの特に『接吻』に魅せられてからは、見る人も割り込めないような官能的な二人の愛を絵の中で表現したいと模索しています。本格的に日本画を描き始めた高校生の時から女性を“モチーフ”に制作していましたが、いつからか女性はモチーフというより“テーマ”になってきました。私自身が女性であることと、女性も恋愛対象であることが現在の私の表現活動における根幹ですが、今後どう絵が変わっていくか、私自身もわかりません……」と言う。
山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。