自然豊かな兵庫県の淡路島で、猫をモチーフとした木彫作品の制作にいそしむ彫刻家・花房さくら。
空に星や月を飾ろうとする猫や、ランドセルを背負って元気よく手を挙げる猫、まるで人間のように湯船の縁に腰掛ける猫など……ユーモアにあふれた作品が注目を集めている。花房のマネジメントを担うpetel galleryのオンラインショップでは、2022年3月から「ネコノ農園」と題したコーナーを開始。「淡路島のネコノ農園のネコノさんが旬の野菜やフルーツをオンラインショップで毎月販売する」というコンセプトだ。実際に毎月、実物大の野菜や果物に猫の顔が現れたような「ネコノ農園」シリーズが抽選販売されており、初回から現在まで常に完売となるほど好評だ。
さらに2022年10月には、株式会社SO-TAから花房が原型を手掛けたカプセルトイが発売される。新たな作品展開を経て、その世界観は猫好きな人だけでなく、ますます多くの人を虜にすることだろう。
このインタビューでは、猫とのエピソードや、作品に込めた思いなどを尋ねた。
──「ある日突然思い立ち、仕事を辞め彫刻の道へ進むことを決意」したとのことですが、何かきっかけとなる出来事があったのでしょうか?
かねてから美術に興味があり、漠然と「公務員を定年退職したら美術大学に行こう」と考えていました。けれど、たまたま本屋で美大の受験雑誌を立ち読みしたときに、若い人たちが予備校に通って何浪もしながら努力している事実を知り、「歳をとってからなんて悠長なことは言ってられない!」と考え、その翌日には、美大に行くために退職したい旨を上司に伝えました。
──花房さんにとって、木彫という立体表現の魅力は何ですか?
頭で考えた形が出来上がっていくスピードが、自分にとってちょうどいいところです。石彫だと遅すぎて作りたいものが消えてしまうし、粘土だと速すぎて手が脳を追い越してしまいます。また、好きなように色を塗れたり、材をくっつけることができたりするなど、自由度が高く扱いやすい点も気に入っています。
──制作する上で大切にしていることは何でしょうか?
現実にはあり得ないものを作ることが多いのですが、それを実在するように感じられるまで作り込むことです。彫刻作品という枠を超えて、現実世界の中に溶け込ませることを意識して制作しています。
──最近の課題として、特に意識していることは何ですか?
面白いと思ったらとりあえず作ってみる、ということを意識しています。これまでは、制作の動機や作品のもつストーリー性などを自分が納得するまで考え、それができないうちは作り始めることを避けてきました。しかし、思いつきから出発した作品でも完成した先に次の展開があることも多いと分かってきたため、とりあえず形にすることにしています。
──愛知県立芸術大学在学中から猫の作品を手掛けておられますが、猫をモチーフにしたいと思った理由をお聞かせください。
たまたま猫を飼っていて、観察しやすいという理由から作ってみたのが始まりです。在学中、美術の世界があまりにも広く、何から手をつければいいのかわからず完全に迷子になっていたときに「とりあえず猫を題材に制作していこう」と決めてみました。
──花房さんにとって猫とはどのような存在ですか?
人間と同じで動物の一種です。当たり前ですが猫にも魂や性格があって、中身は人間も猫も変わりないと思っています。一緒に暮らしている猫は「飼っている」というより、同じ屋根の下で暮らすルームメイトのような存在です。
──確かに、花房さんの作る猫たち一匹いっぴきにも個性を感じます。そんな猫との思い出深いエピソードを教えてください。
愛知県立芸術大学にいた「まがり」という“有名猫”のことが印象に残っています。またの名を「せつこ」といい、神出鬼没で大学内ならどの教室にも自然に入り込んでいました。大学入試のときに初めて出会い、その後の大学・大学院での生活を思い出すと、どこを切り取っても彼女の姿があります。彼女にとって私は数多い学生のうちの一人に過ぎなかったと思いますが、たまに膝に乗ってきてくれたときなどは選ばれたような気分になり嬉しかったです。人間より人間らしく、アイドルでもあり、校長先生でもあるような、凄く存在感のある猫でした。
──作品を通してどのようなことを伝えたいですか?
私の作品は猫をモチーフにしていますが、そこで表現しているものは人間世界であることが多いです。猫を通して、人間の愉快さや滑稽さ、そして生きることへのエールなどが伝われば良いなと思っています。
──作家として、これから挑戦してみたいことはありますか?
もっと体験できる彫刻作品を作りたいです。作品として眺めるだけでなく、観る人が作品の中に入り込んでしまえるようなものを作りたいです。
玉ねぎ畑に囲まれた伸び伸びとした環境で制作に打ち込んでいるという花房。その作品の魅力は、彼女のつぶやきの中にも隠れていた。
「たまに彫刻を外に連れ出してあげている。 そのときの天気や時間帯によって見え方が違っておもしろい。」
(花房さくら 6月10日のTwitterより)
リアリティのある花房の猫の作品は、手のひらサイズから実物大まで様々。生き生きとした猫たちのいる空間は、まるで物語の一場面であるかのように輝いている。
花房 さくら Sakura Hanafusa
青森県生まれ
2014 愛知県立芸術大学 美術学部美術科彫刻専攻 卒業
2016 愛知県立芸術大学大学院 美術研究科 博士前期課程 彫刻領域 修了
Exhibition
2013 ありさくら「くろすわーるど展」市民ギャラリー矢田(愛知)
2014 「愛知県立芸術大学卒業修了作品展」愛知県美術館(愛知)
2014 「Carving Exhibition Ⅲ」ノリタケの森ギャラリー(愛知)
2014 「愛知県立芸術大学博士前期課程彫刻領域研究発表展」愛知県立芸術大学 芸術資料館(愛知)
2015 ありさくら「花子と蝶々」gallery+cafe blanka(愛知)
2015 「愛知県立芸術大学博士前期課程彫刻領域研究発表展」愛知県立芸術大学 芸術資料館(愛知)
2016 「Carving Exhibition Ⅳ」ノリタケの森ギャラリー(愛知)
2016 「愛知県立芸術大学卒業修了作品展」愛知県美術館(愛知)
2016 「YOUNG ART TAIPEI 2016 」(台湾)
2016 「たまらなくかわいい展」新宿伊勢丹ギャラリー(東京)
2016 「ラフラフライフ」ギャルリーくさ笛(名古屋)
2017 「ネコテン」5/R Hall&Gallery(名古屋)
2017 「YOUNG ART TAIPEI 2017 」(台湾)
2017 「たまらなくかわいい展」新宿伊勢丹ギャラリー(東京)
2018 「ネコテン」5/R Hall&Gallery(名古屋)
2018 「花房家の小さな展覧会」加古川駅市民ギャラリー (兵庫)
2018 「愛知県立芸術大学の精鋭たち」松坂屋名古屋(愛知)
2018 「ケモノと秋のかくれんぼ」gallery kissa(東京)
2018 「オオサカアートフェス@梅田」阪神梅田本店(大阪)
2019 「花房さくら個展〜そろそろお茶にしませんか?〜」阪神梅田本店(大阪)
2019 「花房さくら展 ねこのプロローグ」松坂屋名古屋(愛知)
2019 「ツチノコトラベルで行く島巡り」gallery kissa(東京)
2020 「花房さくら個展 世界がピカピカ」松坂屋名古屋(愛知)
2020 「悠悠木鳴」七寳gallery (北京)
2020 東京手づくり博「宝飾の街/人形の国/動物の森/博物の城」渋谷西武百貨店(東京)
2020 「3周年グループ展・午後のティー」Queen and the chair(福岡)
2020 「花房さくら個展〜文房具屋はじめました〜」阪神梅田本店(大阪)
2020 「クリスマスマーケット」阪急うめだ本店(大阪)
2020 「アート2021 干支展」あさご芸術の森美術館(兵庫)
2021 「ART@DAIMARU 次世代アートフェスタ」大丸京都(京都)
2021 「花房さくらプチ個展〜フルーツパーティーへようこそ〜」tsugumi(東京)
2021 「アート2022 干支展」あさご芸術の森美術館(兵庫)
2021 「花房さくら木彫展 冬のおくりもの」香林坊大和(金沢)
2022 「アーティスト・メイドのおもちゃ展」日本橋髙島屋(東京)
2022 「愛しの猫展」watagumo舎(愛媛)
2022 「花房さくら木彫展〜きらきら☆メモリアル〜」阪神梅田本店(大阪)
受賞歴
2014 愛知県立芸術大学卒業修了作品展 彫刻専攻優秀賞
2015 第9回飾り瓦コンクール 朝日新聞社賞
2016 第10回飾り瓦コンクール 高浜市長賞
2016 平成27年度長久手市長賞
・オフィシャルサイト https://www.hanafusa-sakura.com
・Instagram https://www.instagram.com/sakura_hanafusa/
・Twitter https://twitter.com/hanafusa_sakura
展覧会予定
■2022年9月(会期未定) 花房さくら個展(タイトル未定)/queen and the chair (福岡)
■2022年12月1日〜12月30日 花房さくら個展(タイトル未定)/TSUTAYA BOOKSTORE 岡山駅前
■2023年2月18日〜3月4日 花房さくら個展(タイトル未定) /ここちcomfort Gallery 器(広島)
※展覧会詳細は、作家オフィシャルウェブサイトをご覧ください