京都芸術大学では2022年2月5日(土)から13日(日)まで、「2021年度 京都芸術大学卒業展・大学院修了展」が開催された。新型コロナウイルス感染症対策として、受付時間ごとに来場者数の制限を設け、事前予約制を導入。予約が必須にも関わらず会場は多くの来場者で賑わい、予約枠が埋まる日が続出するほど盛況だったようだ。9日間の会期を通して、6,658名の来場者を記録。また、2月12日(土)と13日(日)には、高校生・受験生に向けて「卒展オープンキャンパス」も同時に開催された。
展覧会タイトルとして掲げられたのは、コロナ禍で開催を迎えることとなった前年度に続き「芸術に何ができるだろう?」という言葉だ。世界的なパンデミックは、学生生活や制作環境にも大きな影響を与えたことだろう。そのような状況に置かれながらも、大学での学びの集大成として学生一人ひとりが導き出した答えを感じてほしい。
授業だけでなく、企業と連携した社会実装プロジェクトや自主制作などを通して身につけた感受性・技術力・表現力を、学生それぞれが発揮した、約800点にのぼる作品が一堂に会した。ここではその中から、学長賞受賞者14名と大学院賞受賞者2名のうち、10名をピックアップして紹介しよう。
学長賞 受賞作品
移ろいゆく自然の情景を表現した作品。藍や玉葱の皮といった自然染料で染められている。作家は織り続ける行為を、寄せては返す波のようだと感じるときがあるのだという。
紙をやぶり表れる1つの山がその日1日を表し、日々が積み重なることで山脈が出来上がるダイアリー。私たちが過ごしている日々は、様々な経験や感情が積み重なってきたからこそある。このプロダクトが、日々の中での自らの味方となってくれることを期待する。(展示キャプションより)
「年下男子の魅力」をテーマに描いた全4話の少女マンガ作品。
「まだ私のどこかに残るこどもゴコロを、忘れず大切にとっておきたい」という杉浦。シンプルな遊びから生まれるさまざまな疑問や発見。"こどもゴコロ"を引き出す作品だ。
デジタルとアナログを融合させた新しい遊びの形。ジオラマにアイテムを置いたり動かしたりすると、連動してモニター画面も変化する、従来のゲームの枠を飛び越えた作品。「観察するほど達成を得る」がコンセプト。
日本で使用されている木材はほとんどが海外からの輸入であり、消費量が少ない国産材は危機的状況に陥っている。そんな国産材の魅力を多くの人に周知し、未来の循環を生むための活動。
100年後を見据えた未来のため、北九州市を舞台に、水生植物を用いた水質浄化の機能や豊かな植物が景観を作り出す親水空間を提案。
「私たちの日常にしれっと存在する庶民的なデザイン。コンセプトやおしゃれとは距離を置きながら生活に馴染んでいるデザインに、別の価値観の魅力とシンパシーを感じます」と長澤。
京都の一乗寺にある物件を誰でも利用でき、制作と配信ができるシェアスタジオに。それぞれの部屋の光景がリアルタイムで配信される。
大学院賞 受賞作品
バラス(砕石)と不織布、蛍光色の色を用いた繊細な作品。彼女の学部卒業時の作品が、『美術屋・百兵衛 No.53』の「2019年度 京都造形芸術大学 卒業展・大学院修了展 レビュー」に掲載されている。
芸術で身を立てられる若者を増やしたい
京都芸術大学は卒業・修了展をアートフェアとして展開しており、作品を購入することができる。今回の売上総額は約1,630万円で、昨年度と比較すると約480万円増。それら作品の売上は、すべて学生に還元された。
ファインアート系の学生を中心に価格設定などについても指導しているという同学。会期前に開催されるプレビューでは、ギャラリストやコレクターなどの美術関係者を相手に、学生が自身の作品の前でディスカッションをおこなう。展覧会を通じて、学生がアーティストやクリエイターとして独り立ちできるよう、セルフプロモーションのスキルも磨くことができるのだ。
2010年からスタートしたこのアートフェア形式の卒業・修了展をディレクションしたのは、同学教授で現代アーティストとしても活躍する椿昇。彼は、売上がアーティストに100%還元される「ARTISTS’ FAIR KYOTO」のディレクターも務めており、芸術で生計を立てられるような若者の育成に尽力している。
キャンパス全体を美術館に見立て、自由な表現方法を追求
エリコの城壁でトランペットが鳴り響いて以来、音楽は戦争行為とともにあった。スピーカーから流れるポップミュージックは、グアンタナモ収容所やアブグレイブ刑務所における捕虜への拷問に用いられたプレイリストの一部を借用している。迷宮の「内外の境界が存在しない」トポロジカルな性質のように、弓矢を起源に持つとされる音楽もまた原初から暴力を内包しているのではないだろうか。(キャプションより)
現地を訪れて個人的に気になった作品は、戸田樹《貴方の中に、貴方が最も忌み嫌うものを見出す。》。巨大なスピーカーから流れる音楽が、展示空間である体育館中の空気を震わせるように鳴り響いていた。このように、“どのように観せるか”という狙いも作品の一部であると言えるのではないだろうか。キャンパス全体を展示会場とすることで、長期間にわたる展示計画が可能になるだけでなく、作品サイズ、屋内では敬遠されがちな水や土といった素材による制約を受けることもない。学生各々が表現者・研究者として最高のポテンシャルを発揮できるよう熟考し、自身の作品を披露するのにふさわしい環境を整える経験は、必ず将来の糧となるはずだ。
展示では作品のそばに名刺やポートフォリオを置くだけでなく、それらを通じて自身の活動をPRするサイトやSNSのアカウントへと誘導する工夫も見られた。これは、会場を離れた後も気になった学生の活動をチェックできるため、鑑賞者にとっても嬉しい配慮だと言える。
展覧会タイトルの「芸術に何ができるだろう?」とは、表現や研究に励む者だけでなく、アートに興味を持って触れようとする鑑賞者にも投げかけられた問いかもしれない。
京都芸術大学を新たに巣立った卒業生・修了生の、これからの活躍にもぜひ注目してほしい。
■2021年度 京都芸術大学卒業制作展 大学院修了展
・会期 2022年2月5日(土)〜2月13日(日)
・会場 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
・URL https://www.kyoto-art.ac.jp/sotsuten2021/
[information]
京都芸術大学(瓜生山キャンパス)
・住所 京都市左京区北白川瓜生山2-116
・電話 075-791-9122(代表)
・URL https://www.kyoto-art.ac.jp/