軽井沢安東美術館は、日本で初めて藤田嗣治の作品だけを常設展示する美術館として、昨年10月、軽井沢にオープンした。
美術館の創設者である安東泰志代表理事は、約20年にわたって夫妻でエコール・ド・パリの代表的な画家 藤田嗣治の作品を蒐集、自宅の壁にかけて慈しんできた。かわいい猫と少女をモチーフとした作品に惹かれて蒐集が始まったコレクションは、今では初期から晩年までの広範囲に及び、国内外の藤田研究者をも唸らせる充実した内容となっている。同館に常設展示されるこれらの安東コレクションは、個人としてはかつてない規模と質の高さを誇るといっても過言ではないだろう。
開館記念展に続いて、同館では2023年3月3日から9月12日まで、企画展「藤田嗣治 猫と少女の部屋」が開催される。
安東泰志と妻・恵による藤田作品約200点のコレクションの始まりは、散歩の途中に偶然ギャラリーで出会った一枚の版画だった。そこに描かれた愛らしい猫に魅せられた二人は、その後、猫だけでなく少女の作品も好んで集めていくことになる。
美術館創設のきっかけともなった、こうした猫と少女の作品は、安東コレクションの中核をなしている。今回の展覧会では、「猫と少女の部屋」と題し、コレクション最初の作品となった《ヴァンドーム広場『魅せられたる河』より》(1951)のほか、表情豊かに、ユーモアたっぷりに、躍動感あふれる猫たちが描かれた《猫の教室》が、展示室5で初披露される。藤田は1920年代から人物像とともに動物をよく描いているが、擬人化された動物が登場するのは1947年以降のこと。この作品は、同じニューヨークで同年に制作された、狐の家族を擬人化した作品《ラ・フォンテーヌ頌》(ポーラ美術館所蔵)を彷彿させる躍動感、繊細な筆遣い、そして豊かな色合いに満ちている。猫の作品という枠組みを超えて、この時代の藤田を代表する貴重な作品の一つと言えるだろう。
そのほか、藤田作品の代名詞でもある「乳白色の下地」の裸婦像など、それぞれの時代ごとに藤田の画業を代表する、多彩かつ貴重な初公開作品が各展示室で紹介される。全120点ほどの作品から、藤田嗣治の素晴らしさを感じ取ってほしい。
ミュージアムショップやカフェでも豊かなひとときを
館内の1階と2階にある2箇所のミュージアムショップでは、安東美術館コレクションカタログはもちろん、所蔵作品をもとにデザインされたポストカードやステーショナリー、各種雑貨など、様々なオリジナルグッズを取り揃えている。
また、館内には1921年創業のコーヒー器具メーカー「HARIO」直営のカフェもある。HARIO製品で淹れたスペシャリティコーヒーや紅茶が楽しめるほか、それらの器具を実際に触れて購入することが可能。
美術館限定デザインを含むHARIO Lampwork Factoryのガラスアクセサリーの販売もされている。入館チケット提示で、HARIO CAFEの飲食代が10%OFFになるので、作品鑑賞の前後に豊かなひとときを過ごしてみてはいかがだろうか。
同時開催
特別展示「藤田嗣治と日本文化 パリにおける『本のしごと』」
1920年代、「乳白色の肌」の下地で一躍有名となった藤田嗣治。それは、渡仏後、自身の画風を模索し続けた藤田が見出した画法、藤田にしか作り出せないマチエールであり、多くの人々を魅了した。ただし、パリでの藤田の活躍はこれだけではなかったのだ。
藤田が脚光を浴びた1920年代は、第一次世界大戦を経て日本が世界の仲間入りを果たした時期にあたり、「第二のジャポニズム」とも思える動きが見られるようになる。1924年の日仏会館の設立、1929年のパリ国際大学都市における日本館の開設にとどまらず、幅広い文化的な領域にまで「第二のジャポニズム」の波が押し寄せた。この潮流を受けて藤田は、日本をテーマとした挿画本に深く関わっていくことになった。そして日本をテーマとした「本のしごと」は、戦後、パリに戻った1950年代にも確認することができる。
今回、軽井沢安東美術館の特別展示室(挿画本展示室)では、同館の挿画本コレクションの中から、特に日本文化と藤田をテーマとした作品が紹介される。
[information]
企画展「藤田嗣治 猫と少女の部屋」
・会期 2023年3月3日(金)~9月12日(火)
・会場 軽井沢安東美術館
・住所 長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢東43-10
・時間 10:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
・休館日 水曜日(祝日の場合は開館、翌平日休館)
・観覧料 一般2,300 円、高校生以下1,100 円、未就学児無料
※オンライン予約は各100円引き
※他各種割引あり。詳細は美術館公式サイト参照
・交通 JR「軽井沢」駅北口より徒歩8分
・TEL 0267-42-1230
・URL https://www.musee-ando.com/