不可思議なモチーフや奇妙なフォルムで想像力を刺激し
見慣れた現実を幻想へと変容させる版画の魅力
東京都の町田市立国際版画美術館で、「幻想のフラヌール―版画家たちの夢・現・幻」と題する展覧会が6月1日から9月1日まで開催される。時に鏡にも例えられる版画は、作者の夢想と観る者の願望を如実に映し出すもの。版面/紙面の不可思議なモチーフや奇妙なフォルムは想像力を否応なく刺激し、見慣れた現実をも幻想の世界に変容させる版画家たちの精神と手業は既成の概念を揺り動かし、観る者を別の世界へといざなうかのようだ。
独自の世界をさまよう〈フラヌール(flaneur=「遊歩者」を表す仏語)〉ともいうべき版画家たちの作品は、過去や我々の内に眠る原初的な記憶を呼び起こしながら、現実世界の可能性、すなわち未来の姿をも浮かび上がらせる力を内奥に秘めているといえる。
この展覧会では、企画協力に美術評論家の相馬俊樹を迎え、幻想の力によって〈アナムネシス(anamnesis=「記憶回復」を表す英語)〉を喚起する作品が、同館の収蔵品から150点ほど紹介される。版画/鏡をのぞきこみながら作品の間を遊歩するうちにおのずと取り込まれる世界は、「夢幻」と「現実」、「作品」と「我々」、そして「芸術のための芸術」と「生のための芸術」などの境界が溶け合う場となるだろう。
展示構成
刻線の魔力
版に刻んだ線によって自然が内包する力を表出させた版画家たちを紹介。
出展作家:木村茂(1929-)、木原康行(1932-2011)、門坂流(1948-2014)
〈エロス〉の形態学
人間に内在する力を形態の変容と歪曲によって顕現させた版画家たちを紹介。
出展作家:パウル・ヴンダーリッヒ(1927-2010)、ヨルク・シュマイサー(1942-2012)、多賀新(1946-)
時空のアナモルフォーシス
時間と空間の歪像ともいうべき世界によって、時空の無限性を形象化した版画家たちを紹介。
出展作家:星野美智子(1934-)、エリック・デマジエール(1948-)
神話のイマジネール
独自の神話体系ともいうべき世界観を有する版画家たちを紹介。
出展作家:エルンスト・フックス(1930-2015)、藤川汎正(1940-)、蒲地清爾(1948-)
生・命・力―若きヴィジョネール/フラヌールたち
三者三様の表現によって版面と紙面に生命力を宿らせる版画家たちを紹介。
出展作家:池田俊彦(1980-)、山田彩加(1985-)、西村沙由里(1988-)
語り、詠う幻像たち
言葉を着想源としながら夢幻の世界を紡ぐ版画家たちを紹介。
出展作家:小林ドンゲ(1926-2022)、清原啓子(1955-1987)、アンティエ・グメルス(1962-)
夢の敷居
夢幻と現実の境域を版面に刻むことでつなぎだす版画家たちを紹介。
出展作家:坂東壯一(1937-)、渡辺千尋(1944-2009)
鏡像の宇宙
版を鏡として自らの精神を版に刻み、紙面に映し出した版画家たちを紹介。
出展作家:加藤清美(1931-2020)、日和崎尊夫(1941-1992)、柄澤齊(1950-)
腐蝕の傷痕
分身ともいえる版に死/生を刻み込んだ版画家たちを紹介。
出展作家:ホルスト・ヤンセン(1929-1995)、菊池伶司(1946-1968)
[information]
幻想のフラヌール―版画家たちの夢・現・幻
・会期 6月1日(土)〜9月1日(日)
・会場 町田市立国際版画美術館
・住所 東京都町田市原町田4-28-1
・時間 平日10:00~17:00、土・日・祝日10:00~17:30 ※入場は閉館30分前まで
・休館日 月曜日 ※7月15日(月・祝)、8月12日(月・振休)は開館、7月16日(火)、8月13日(火)は休館
・観覧料 一般800円、大学・高校生400円、中学生以下無料
※会期中の第4水曜日のシルバーデー(6月26日、7月24日、8月28日)は65歳以上の入場無料
※身体障がい者手帳、愛の手帳(療育手帳)または精神障がい者福祉手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は半額
※リピーター割引、ウェブクーポン割引ほか各種割引を実施(詳細は町田市立国際版画美術館のWebサイトに掲載予定)
・TEL 042-726-2771
・URL http://hanga-museum.jp