アーティスト

市川江真インタビュー
──生命の軌道を追いかける

 

2月24日(土)からREIJINSHA GALLERYで開催される「TUAD ART-LINKS 2024 市川江真 水中庭園」。この展覧会は、東北芸術工科大学洋画コースを2020年に卒業した市川江真による個展だ。初めての個展を直前にした彼女に、展覧会への意気込みや作品についての話を聞いた。

《夏ノ形》画像

《夏ノ形》金箔、墨、ボールペン/石膏、パネル 60.6×60.6cm 2023年

モノトーンの世界を追求する

──大学では洋画コースに在籍されていたそうですね。現在の市川さんの作風からすると意外に感じます。

私の通っていた洋画コースでは油絵を学ぶのはもちろんですが、自己表現を見つけていくために様々な素材や技法に触れる演習もありました。その中で大学3年時の金箔演習が、現在の作風に至る大きなきっかけとなりました。
その時に初めて金箔素材に触れ、金箔を使った作品を調べるにつれて、金箔の魅力に惹かれて自分の表現へ活かすようになりました。

 

──金箔の他にも日本画的な画材を使うことが多いのでしょうか? 

画材はたくさん活用しているので、ミクストメディアと表記することが多いです。墨や岩絵具などの日本画材も使用しています。基本は石膏地に金箔、ボールペン、墨、それに加えて銀箔、鉛筆、色鉛筆、カシュー塗料、螺鈿、和紙、カラースプレー、木炭など様々な画材を作品に合わせて活用しています。

 

──多くの画材を使っているのですね。それらを使い始めたのはなぜですか?

幼い頃から紙とペンさえあればひたすら絵を描いていました。その頃の感覚を思い出し、それに合わせたモノトーンの世界を追求するにつれて色々な画材を活用するようになりました。

 

──幼い頃の感覚が、現在の作品に活きているのですね。

絵を描くことで人が驚いたり、喜んだりしてくれることが嬉しかったのを覚えています。高校卒業後の進路を考えた際に、隣の県に美大があることを知って、絵画を本格的に学んでみたいと思い、大学進学を決めました。

 

生き物たちの心地良い軌道を見つめて

《海ノツガイ》画像

《海ノツガイ》金箔、墨、ボールペン/石膏、パネル 130.0×240.0cm 2024年

 

──海洋生物や植物をモチーフに作品を描かれていますが、その理由を教えてください。

もともと、水族館が好きでよく通っていました。水中を優雅に泳ぐ生き物たちの心地良い軌道を、つい目で追いかけてしまい、その自由に泳ぎ回る姿に羨ましさを感じています。
植物を描き始めたのは、「家族愛」をテーマに描いた卒業制作がきっかけです。母の好きな「紫陽花」について調べてみると、様々な花言葉があり、その中でも「辛抱強い愛情」「家族」「団欒」などが自分の描きたいテーマにぴったりでした。そこから花をよく観察するようになり、花のもつ美しさに惹かれたのはもちろん、自分の想いに合う花言葉を見つけることで絵に表すようになりました。

 

──作品のインスピレーションはどこから湧き上がってくるのでしょうか?

日常で発見する植物から、もしくは、自ら植物園や水族館に行って、インスピレーションを受けて絵を構想することが多いです。
あとは、画面の中でインスピレーションを湧かせながら描きます。エスキースを基にドローイングを描くことから始め、思うがままに引いた線、垂らして、広げて、延びた墨。そこから、形を発見していき、どんどんインスピレーションを働かせて、描きたいものを見つけていくことが多いです。

 

──思いのままに描く線を、作品の主体とされているのですね。その中でも特に苦労されていること、あるいは楽しいことなどを教えてください。

私の場合はエスキースを考えるときに、完璧に決めすぎると画面の終着地点を決めて満足してしまうので、構図とモチーフだけはしっかり決め、その他は描く時に考えながら制作します。この時に作品の終わりが見えなくなって「この次どうしよう」と手を動かしながらも悩みながら描いて苦労しています。ただ、思いのままに描き、思考し続けて描くことで、絵が引き締まっていくのが楽しいです。なので、「苦しい」と「楽しい」をずっと繰り返しています。

 

《癒シノ果テ》画像

《癒シノ果テ》金箔、墨、ボールペン/石膏、パネル 53.0×41.0cm 2021年

市川江真にとっての作家活動とは

──市川さんは二紀展や昭和会展でも活躍されていますね。昨今の若手アーティストが団体展に出展すること自体珍しいのではないでしょうか? そのきっかけを教えてください。

昭和会展には、大学の教授から紹介を受けて応募しました。ちょうど卒業制作が終わる頃でしたので、何か目的があることで引き続き制作もできるし、締切日があることでそこまでに描き切る!というモチベーションを保って、制作をしたいと思ったからです。入賞できてすごく嬉しかったことを覚えています。
団体展や公募展に対して、私は前向きに取り組んでいます。落選したらもちろん落ち込みますが、入選や賞に選ばれたら、今後のきっかけになったり、自信にもつながると思っています。

 

──絵画という形式以外の表現をされる可能性などはありますか?

以前、たまごの殻を使った『うみなおし』という立体作品をつくりました。そのきっかけは、自己表現の新たな開拓を試みた当時の大学のカリキュラムの「描く・描かない」という課題です。自分は「描かない」選択をして、当時は卵の殻の造形的な美しさに魅力を感じていたので、廃棄されてしまう殻たちに価値を与えたいという想いから始まり、この作品をつくりました。
今は絵画を中心に制作していますが、『うみなおし』のように自分の表したいことによって立体表現にも今後挑戦したいと思っています。

 

──幅広い表現が今後も楽しみです。市川さんは制作する上で何を大切にされているのでしょうか?

大切にしていることはいくつもあるのですが、モチーフにしているものをそのまま描きすぎず、けれどもその存在を感じさせるようなバランスを取ることです。絵画に起こすにあたって、自分の想いを画面に一方的にぶつけるのではなく、鑑賞者が想像力を膨らませられるような絵づくりを心掛けています。

 

初個展を目前に控えた今の思い

──今回が初めての個展ということですが、開催を間近に控えた心境はいかがですか?

とにかくドキドキワクワクしています! 自分の作品が一面に並ぶ姿を初めて見るので、楽しみです。今回は、個展に向けて二曲一双の屏風を制作しました。大作を一人でも多くの方に見てもらえたら嬉しいです。さらに、過去作中心ですが、今まで描きためていたドローイングも展示するので、色々な挑戦が詰まった個展になるかと思います。

 

──鑑賞者にどのようなことを伝えたいですか?

一つ一つの作品の中には、自分の想いや願いがこめられています。どんな花があって、どんな生き物がいるか想像しながら見てほしいです。ただ、正解を見つけてほしいわけではなくて、見る人によって色々な生き物に見えてもいいですし、どんな想い、どんな願いを誰に贈りたいか考えながら見てもらえたら嬉しいです!

 

──最後に今後の展望についても教えてください。

いつも東京を中心に展示しているので、地元の東北や海外など様々な場所で展示をしてみたいです。今後も、より多くの人に作品を見てもらえるよう、また、立体作品や襖絵など自分の表現の引き出しを増やしていけたらいいなと思います。

 

今回のインタビューで語られた「色々な挑戦が詰まった個展」という言葉から、油絵や日本画というジャンルを超えて表現しようとする姿が垣間見えた。自由な海洋生物のように枠組みを超えていく彼女を、今後も追っていきたい。

「TUAD ART-LINKS 2024 市川江真 水中庭園」についての記事はこちら

 

[Profile]
市川江真
Ema Ichikawa

1997年
宮城県生まれ
2016年
東北芸術工科大学洋画コース入学
2018年
第1回DBCアートアワード岩泉産業開発賞受賞(岩泉町民会館/岩手)
2019年
第73回二紀展奨励賞受賞(国立新美術館/東京)
2020年
第55回昭和会展東京海上日動賞受賞(日動画廊/東京)
東北芸術工科大学卒業/修了研究・制作展2020優秀賞受賞(東北芸術工科大学/山形)
東北芸術工科大学学長奨励賞個人の部選出
東北芸術工科大学洋画コース卒業
『秋の讃歌』展 Vol.4 -瓜生山の金風-(東京九段耀画廊)
CoexistⅠ2020 -共存Ⅰwith COVID-19-(GALLERY ART POINT/東京)
2021年
東北芸術工科大学卒業生支援プログラムTUAD ART-LINKS 2021(ORIE ART GALLERY/東京)
第8回トリエンナーレ豊橋星野眞吾賞展(豊橋市美術博物館/愛知)
2022年
「TOUGENは何処?」鴻崎正武退任記念ゼミ展(ゆう画廊/東京)
二人展:千葉史織・市川江真(東京九段耀画廊)
2023年
LIFE~いきものたちの世界~(日動画廊/東京)
第60回太陽展(日動画廊/東京)※’20、’22年出展
第17回夏の会展(日動画廊/東京)
第62回ミニヨン展(日動画廊/東京)※’20年出展
2024年
個展「水中庭園」TUAD ART-LINKS 2024 (REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、東京都にて制作

[information]
TUAD ART-LINKS 2024 市川江真 水中庭園
・会期 2024年2月24日(土)~3月8日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜、祝日
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery

 

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