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第13回「創造する伝統賞」授賞式 
2021年度「日本文化藝術奨学生」授与式

第13回「創造する伝統賞」授賞式会場

日本のメダルラッシュに沸く北京オリンピックも終盤を迎えた2022年2月16日、東京元赤坂の明治記念館において第13回「創造する伝統賞」授賞式、2021年度「日本文化藝術奨学生」授与式がおこなわれた。

創造する伝統賞

「創造する伝統賞」は、日本の伝統文化および現代芸術の保護、育成及び振興、普及向上に取り組む公益財団法人日本文化藝術財団が実施している助成顕彰事業。日本の伝統文化や現代芸術の分野において、著しい貢献をしているにも関わらずその存在や活動が広く一般に知られていない、または、活動実績がありさらなる飛躍が期待される実技者、研究者、技能者を顕彰することを目的としたもので、日本の文化・芸術にかかわるあらゆる分野を対象としている。美術分野の過去の受賞者は、美術家の宮永愛子(第1回)、島袋道浩(第2回)、三瀬夏之介(第5回)、須田悦弘(第7回)、風間サチコ(第8回)など。「美術屋・百兵衛ONLINE」に「画墨の基礎知識」を連載中の青木芳昭京都芸術大学教授も第8回の受賞者の一人だ。

そして今回、栄えある「創造する伝統賞」を受賞したのは、画家の佐藤裕一郎と木工芸家の中川周士の二人。

佐藤の選出理由を見てみよう。「日本画科出身という、ともすれば保守的な立ち位置/表現になってしまいかねない制作姿勢を、フィンランドヘの移住によって見事に昇華させた凄まじい世界観を構築した彼の成功には瞠目せざるを得ない。海外における日本画材料入手の困難さから現地にても調達可能な画材をもって、不利であったであろうその状況を見事に逆転し、斯くなる美しさを生み出せる力量は日本画だ洋画だ油画だアクリルだ鉛筆だ、或いは近代だ現代だといった表現領域のカテゴライズすら陳腐化する圧倒的なものではないか。こうした力強さと精緻さを兼ね備えた美術家が日本の表現を牽引していく未来を見てみたい、そんな思いを想起させる表現者はそう居るものではない。」(「創造する伝統賞」選考委員=池内務:レントゲン藝術研究所準備室代表)

佐藤裕一郎ポートレイト

佐藤 裕一郎

「佐藤裕一郎展Forest-森」の展示風景

佐藤裕一郎展「Forest − 森」2019年  ユヴァスキュラ美術館

佐藤裕一郎関連展示風景

一方、中川の選出理由は以下の通り。「日本の伝統工芸の中で木工芸という一見地味に捉えられがちな分野において、卓越した技術を伝承しながらも既成の枠にとらわれず、革新的なものづくりに挑戦している。これは自己鍛錬を怠らず、真摯に木という素材と向き合うことで成し得た結果であり、彼の身体に刻まれた記憶の産物である。最近では国際的視野を取り入れ、日本の工芸を世界に向けて発信し続けている。特に国内外のデザイナーをはじめ、世界的 アーティストにも大きな影響を与えるほど彼の作品は完成度が高く、彼らとのコラボレーションやプロジェクト、若手工芸士の育成等その活動範囲は拡がる一方である。日本の伝統工芸の一役を担う存在として、今後にも期待したい。」(「創造する伝統賞」選考委員=大野木啓人:空間演出家/京都芸術デザイン専門学校校長)

中川周士ポートレイト

中川 周士

木工芸作品[Precious woodシリーズ]の写真

[Precious woodシリーズ] 2012年 素材:神代杉、高野槙、ニッケルシルバー

中川周士作品展示風景

 

「創造する伝統賞」の授賞式は、例年2月に開催されているが、昨年は新型コロナウイルス感染症のために中止。今年は感染拡大防止のため、会場には万全の対策が施され、出席者にはマスクの着用が義務付けられた。ただし、受賞者のひとり、佐藤裕一郎は現在フィンランドに住み創作活動をおこなっているため、残念ながらビデオメッセージという形での参加となった。来年はコロナ以前の日常に戻って、受賞者たちが多くの出席者から祝福を受けられることを願うばかりだ。

受賞講演をおこなう中川

受賞講演をおこなう中川

移動が制限されているため、居住地のフィンランドからビデオメッセージを会場に送った佐藤

日本文化藝術奨学生

日本文化藝術財団では、芸術系大学で学ぶ者への奨学金給付事業をおこなっている。その中で「日本文化藝術奨学生」は対象を大学院生とし、より優れた技量・才能・将来性を評価し支援するもの。真摯に芸術に取り組み、将来の日本の文化・芸術の担い手となるであろう学生を支えようという奨学金だ。過去25回、計106名の奨学生の中には、今回「創造する伝統賞」を受賞した佐藤裕一郎(第8回)もいる。この奨学金によって大切に育てられた種子が成長し、見事な花を咲かせることを証明したと言えるかもしれない。

2021年度「日本文化藝術奨学生」授与式出席者4名の写真

コロナ禍にもかかわらず、2021年度「日本文化藝術奨学生」6名のうち4人が授与式に駆けつけた。

2021年度「日本文化藝術奨学生」に選ばれたのは、荒川弘憲(東京藝術大学大学院 美術研究科先端芸術表現専攻)、宇留野圭(名古屋芸術大学大学院 美術研究科同時代表現研究領域)、川畑那奈(東京藝術大学大学院 映像研究科アニメーション専攻)、副島しのぶ(東京藝術大学大学院 映像研究科映像メディア学専攻)、高嶺瑞貴(沖縄県立芸術大学大学院 造形芸術研究科生活造形専攻)、藤川史人(秋田公立美術大学大学院 複合芸術研究科複合芸術専攻)の6名。

荒川弘憲「Jamscape lnsectcage」

荒川弘憲「Jamscape Insectcage」(2021年)

現在、内臓や生命、テクノロジ一と幼児性などに関心をもっています。私の制作は人間の「頭」の外側の事物が乞うものを招き入れる、そのような場をつくることを起点にしています。それらの事物を混ぜるように扱いながら、経験と理解が同時になされる抽象化された作品を制作することで、芸術作品の鑑賞体験を開かれたものにしようと試みています。(荒川 弘憲)

宇留野圭「密室の三連構造」

宇留野圭「密室の三連構造」(2021年)

機械部品の鋳造メーカーに勤めた後に美術を始める。機械の構造や世界観から着想を得て、立体作品を中心に様々なメディアの作品を制作している。生と死や内部と外部などの中間領域や境界に興味があり、近年では「密室」をテーマとした大型の立体作品を制作している。(宇留野 圭)

川畑那奈「WEATHERMAP」

川畑那奈「WEATHER MAP」(2021年)

人の些細な行動や社会の本質に触れ、神の視点から眺めるようなアニメーションを目指し制作活動を行なっている。現在はAIによる機械学習を制作プロセスに取り入れ、アニメーションにおける「生命を吹き込む」ことに関する考察を深めつつ、予言/啓示的な現象を引き起こすアニメーション作品の制作を試みている。(川畑 那奈)

副島しのぶ映像作品

副島しのぶ 左「Blink in the Desert」(2021年)、中「ケアンの首達 The Spirits of Cairn」(2018年)、右「鬼とやなり House Rattle」(2019年)

立体・アニメーションの映像作品を制作。アジアの民間伝承や民族文化のリサーチを通じて、あらゆる民族や時代にかかわらず人々が共有するイメージを取り入れた、ナラティブな映像表現を試みる。博士課程では、物質や素材の自生性が映画や彫刻、立体アニメーションなど三次元的な物語表現に与える影響について研究しながら実制作に取り組んでいる。(副島 しのぶ)

高嶺瑞貴「はなえみ」

高嶺瑞貴 黒漆オオゴチョウ螺鈿箱「はなえみ」(2021年)

漆芸技法は、漆の樹液をはじめ、自然素材を多く使用している。私の中で自然との触れ合いは、心を豊かにしてくれるもので、その自然素材を使用した漆器を生活に取り入れることは、心地よい暮らしへ繋がると感じている。作品制作では、自由な曲面を活かした乾漆造形と、螺細などの加飾技法を組み合わせ、自然の美しさや豊かさを意識した表現の追求を目指している。(高嶺 瑞貴)

藤川史人「Supa Layme」

藤川史人「Supa Layme」(2020年)

特定の土地に長期滞在しながら映像作品を作ってきました。従来の映画制作の方法論を因襲するだけでなく、そこから拡張しようとしてきた先達の方法論を研究しながら、近年は大学院で人類学を学び、映画と人類学の近接点を意識した作品制作を模索しています。ペルーのアンデス地域で制作をしてきましたが、今年から長野県に移住するため今後はアンデスと日本アルプスの山々を含めた制作を行う予定です。(藤川 史人)

式典会場には「日本文化藝術奨学生」たち(および「創造する伝統賞」受賞者)の作品や研究成果がわかる資料が並べられ、多くの関係者や招待客が真剣なまなざしで見つめていた。もしかすると、今回の奨学生の中から将来「創造する伝統賞」を受賞したり、さらに大きな栄誉を得たりする者がきっと現れるに違いない。しかも、そう遠くない将来にそれが実現するのではなかろうか。

「創造する伝統賞」受賞者や「日本文化藝術奨学生」たちの作品や研究成果を見つめる関係者たち

「創造する伝統賞」受賞者や「日本文化藝術奨学生」たちの作品や研究成果を見つめる関係者たち

「創造する伝統賞」受賞者の中川周士、2020年度と2021年度の「日本文化藝術奨学生」らによる記念撮影写真

「創造する伝統賞」受賞者の中川周士、2020年度と2021年度の「日本文化藝術奨学生」らによる記念撮影(式典が中止となった昨年の奨学生たちも壇上に上がった)

 

[問い合わせ先]
公益財団法人日本文化藝術財団 事務局
担当 淺埜・木村・小崎・池田
TEL 03-6434-5546
FAX 03-6434-5547
E-mail jimukyoku@jp-artsfdn.org
URL http://jp-artsfdn.org

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