会場:パナソニック汐留美術館 | 会期:1/11(土)〜3/23(日) |
統一、調和、普遍的法則の理想主義に導かれた芸術観
建築家ル・コルビュジエ(1887‒1965) は活動の後期において、建築の指揮のもとで絵画や彫刻をつなぐ試みを「諸芸術の綜合」と言い表した。この言葉は、統一、調和、普遍的法則の理想主義に導かれた彼の芸術観全体を示すスローガンでもある。
ル・コルビュジエは近代建築の巨匠として世界的に知られているが、他分野の視覚芸術においても革新をもたらした人物である。この展覧会は、1930年代以降に彼が手がけた絵画、彫刻、素描、タペストリーを紹介し、さらに彼が求め続けた新しい技術の芸術的利用にもスポットをあてるもの。後期の建築作品も併せて紹介することで、伝統的な枠組みをはるかに超えたル・コルビュジエの円熟期の芸術観を明らかにしていく。
楽観的で歓喜に満ちたこれらの作品は、「住宅は住む機械」という彼のよく知られた言葉に集約される機能主義者のイメージを超えた、新たな像を結ぶだろう。また、レジェ、アルプ、カンディンスキーといった同時代を生きた先駆的な芸術家たちの作品を対峙させることで、当時の芸術潮流における彼の立ち位置も浮かび上がらせる。
ゲスト・キュレイターにドイツ人美術史家ロバート・ヴォイチュツケ氏を迎えた「ル・コルビュジエ ― 諸芸術の綜合 1930-1965」は、20世紀における革新的頭脳の創造の源泉に迫る機会となるはずだ。
展覧会の見どころと特徴
1. ル・コルビュジエの後期の絵画芸術に注目した初めての展覧会
この展覧会は、活動前半期に焦点を定めた「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」展(国立西洋美術館、2019年)に続き、40歳代以降の円熟期の創作にスポットを当てる日本初の試み。トリプティック(三連画)として展示する《牡牛XVI》《牡牛XVIII》、そして未完の遺作《牡牛》は、人間の生命力と精神の進化を象徴的に表した「牡牛」シリーズの集大成である。
2. ゲスト・キュレイターはロバート・ヴォイチュツケ氏
2020年から22年まで国立西洋美術館の客員研究員として滞日した、ドイツの若手美術史家ロバート・ヴォイチュツケ氏がゲスト・キュレイターとして参画する本展。ル・コルビュジエによる国立西洋美術館(世界文化遺産)の建築の新たな解釈を示した近著『未完の美術館』に基づく、これまでにない視点のキュレーションは新鮮に感じられるはずだ。
3. ウルトラスタジオが手がける洗練された会場構成
ウルトラスタジオとは、国際経験豊富な3人のメンバーが結成した気鋭の建築コレクティブ。都市、歴史、物語などを手がかりにディスカッションを重ねて設計をおこなうスタイルを特徴としている。今回は、ル・コルビュジエの内装に着目して、「インテリア」「コーディネイト」「トランジション」をキーワードに、居住空間の中に置かれた諸芸術の綜合をイメージして会場が構成された。
展示構成
第1章 浜辺の建築家
1930年代のパリの芸術界に、新しい傾向が現れた。1929年の世界恐慌はそれまでの機械万能主義から自然科学的関心へと価値観を転換させ、絵画の自律性を追求する抽象絵画から、未知の世界へと向かうシュルレアリスムの幻想的な絵画が人々の心を捉えるようになったのである。自然界の原理が創作の着想源として再び注目され、ル・コルビュジエも、1918年から実践していたピュリスム(純粋主義)絵画における幾何学的構成に代わって、貝、骨、流木といった有機的な収集物の形態を建築と絵画に取り入れていった。彼はそれらを「詩的反応を喚起するオブジェ」と命名。アルプやレジェもこうしたモチーフに興味を示し、機械と人体、自然、あるいは工業性と地域性との関係性を、絵画や彫刻といった分野で模索していく。
第2章 諸芸術の綜合
ル・コルビュジエの円熟期の創作活動を理解する鍵が、「諸芸術の綜合」の概念だ。絵画、素描、彫刻、タペストリー、建築、都市計画は全て、彼にとって「一つの同じ事柄をさまざまな形で創造的に表現したもの」であり、人の全感覚を満たす詩的環境を創り出すために互いに関わりながら集結するものであった。日本では、インテリア・デザイナーのシャルロット・ペリアンがキュレーションした「巴里1955年―芸術の綜合への提案 ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン3人展」(1955年)において、ル・コルビュジエのこうした芸術観が紹介されている。木彫作品は家具職人のジョセフ・サヴィナとの協働から生まれ、ル・コルビジェはそれらを「音響的形態」と呼んだ。絵画を立体化したその曲面の造形は、「音響的建築」の実現を目指し、ロンシャンの礼拝堂をはじめとする後期の建築作品に応用されている。
第3章 近代のミッション
ル・コルビュジエは二度の世界大戦を経験し、危機の時代から戦後の変遷を生きている。しかし、19世紀の産業革命以降に西洋社会を中心に飛躍的な展開を見た人間の進歩の永続を確信し、躊躇することはなかった。晩年の10年間、ル・コルビュジエは「人間の歴史は予め決定されており“調和の時代”に向かって進むものだ」と、今日ではあまりに楽観的に過ぎる世界観をしばしば語っている。これは「偉大なる綜合」と「偉大な精神性の時代」に近づくための段階として抽象芸術を位置付けた、カンディンスキーの考えにも通じるものだ。この第3章では、ルシアン・エルヴェのカメラが捉えたル・コルビュジエの建築と、カンディンスキーの版画集『小さな世界』を合わせて展示し、二人の世界観を対峙させる。そして、ル・コルビュジエの絵画の集大成である「牡牛」のシリーズから晩年の3点を紹介するコーナーが、この展覧会のハイライトといえるだろう。
第4章 やがてすべては海へと至る
ル・コルビュジエは1954年に執筆した論考「やがてすべては海へと至る」の中で、テクノロジーの発達により高度にネットワーク化、グローバル化が進む情報化社会の到来を予見している。彼は常に時代の先端技術から着想し、建築作品を実現した。その関心は、電子計算センターや、高度情報能力を持つ大型マルチメディア・プロジェクションの開発を構想したことからも明らかだ。チャンディガールの「知のミュージアム」計画では、インド初の女性建築家ウルミラー・エリー・チョードリー(1923-1995)と協働した。このプロジェクトは未来の人工知能=AIをも予知しているかのようである。1958年のブリュッセル万博フィリップス館で公開した《電子の詩》は、当時の最新技術を駆使し、音楽、映像、建築の各要素を融合させ、人類の発展をテーマとした作品。マルチメディア芸術の先駆けともいえるだろう。
⚫︎画像写真の無断転載を禁ず。
[information]
ル・コルビュジエ ― 諸芸術の綜合 1930-1965
・会期 1月11日(土)〜3月23日(日)
・会場 パナソニック汐留美術館
・住所 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
・時間 10:00〜18:00(入館は17:30まで)
※2月7日(金)、3月7日(金)・14日(金)・21日(金)・22日(土)は夜間開館を実施(20:00まで開館/入館は19:30まで)
・休館日 水曜日 ただし3月19日(水)は開館
・入館料 一般1,200円、65歳以上1,100円、大学生・高校生700円、中学生以下無料
※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料
・TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
・URL https://panasonic.co.jp/ew/museum/
⚫︎本展は、ル・コルビュジエ財団の協力のもと開催されます。