17世紀オランダを代表する画家、ヨハネス・フェルメールは、写実的かつ綿密な空間構成と美しい光と影の表現で世界中から愛されている。
寡作で知られるフェルメールの初期の傑作に《窓辺で手紙を読む女》という風俗画がある。その背景にかつてキューピッドの画中画が描かれていたことは、1979年の調査で判明していたが、長らくフェルメール本人が塗りつぶしたものだと考えられてきた。
しかし、2017年から開始された専門家チームによる修復プロジェクトにより、この上塗りはフェルメールの死後、何者かによって行なわれたものであることが明らかとなる。そこで、作品を所蔵するドレスデン国立古典絵画館は、すべての上塗りを取り除くことを決定。2021年9月には長い修復を終え、画家が描いた当初の姿が同館で披露された。
残念ながらいつ、誰が、何のために上塗りを行なったのかは未だ判明していない。実は1742年にこの絵がザクセン選帝侯のコレクションに加わった際の手紙の中では、作者がレンブラントとされていた。当時、フェルメールは現在のように名の知られた存在でなかったが、レンブラントは存命中から高く評価され、没後もヨーロッパ中で絶大な人気を誇っていた。そこで、レンブラント風に見せるために画中画が隠された可能性も考えられるだろう。最終的な結論は、今後の調査、研究の成果を待ちたい。
修復された《窓辺で手紙を読む女》は、所蔵館であるドレスデン国立古典絵画館で公開された後、日本で世界に先駆けて公開される。それが、東京都美術館で2月10日から開催される「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」だ。
上塗りされた絵具層が慎重に取り除かれ、徐々に姿を現していくキューピッド。その修復の過程も、映像やパネル等で紹介される。
また、同展では、ドレスデン国立古典絵画館がこの傑作を収蔵するきっかけになったザクセン選帝侯の貴重なコレクションを中心とし、フェルメールと同時代に活躍した巨匠レンブラント・ファン・レイン、ハブリエル・メツー、ヤーコプ・ ファン・ライスダールなど、17世紀オランダ絵画の黄金期を彩る珠玉の名品約70点もあわせて鑑賞できる。
たとえば17世紀オランダで重要な地位を占めた肖像画。巨匠レンブラントはこの分野においても大きな足跡を残した。また、17世紀オランダ風景画は、以後の風景画の発展に大きな影響を与えていく。
さらに多くのコレクターたちが愛した宗教画や風俗画、静物画などにも注目したい。17世紀オランダの画家たちは聖書の物語と市民たちの日常、つまり聖と俗の両方の場面を描き出している。一方、静物画は、この時代のオランダにおいて隆盛を極め、絵画の一ジャンルとして確立された。
なお、「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」は東京都美術館で4月3日まで開催された後、北海道、大阪、宮城へと巡回する。
[information]
ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展
・会期 2022年2月10日(木)~4月3日(日) ※2月14日(月)は、臨時開室
・会場 東京都美術館 企画展示室 https://www.tobikan.jp
・住所 東京都台東区上野公園8-36
・電話 050-5541-8600(ハローダイヤル)
・時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
※金曜の夜間開室は、展覧会公式サイトでご確認ください。
・休室日 月曜日、3月22日(火) ※ただし2月14日(月)、3月21日(月・祝)は開室
・観覧料 一般2,100円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,500円
※日時指定予約制(詳細は展覧会公式サイトをご覧ください)
・URL https://www.dresden-vermeer.jp
※展示作品、会期等については、今後の諸事情により変更する場合がありますので、最新情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。