ーわたしの注目作家4人ー
今回は地方在住で活躍する多様な作家を紹介する。
まず一人目は白石元郁さん。白石さんの作品をはじめて見たのは銀座中央ギャラリーの公募展だ。たくさんの作品の中で、何かを訴えてくるような彼女の写実的な人物画が気になった。どこのどんな作家かも分からなかったが、調べると九州産業大学の洋画専攻の大学生だった。
彼女によると「物心ついた頃には、すでに絵を描くことに楽しさを見出していて飽きることなく鉛筆を持ち紙に向かっていた。高校の頃から油絵を学び始め、油彩表現の奥深さと繊細な描写をすることに惹かれ、油彩表現を中心とした絵画作品の制作を行っている。近年では、デジタルペインティングなども独学で学んでいる」という。
「私たち人間は終わりもなければ、形も存在しない『精神』と共に生きている。実態はないが確かにある抽象的かつ未開発な人間の精神に注目し、そのことを絵画表現のマテリアルとして取り扱うことで、精神の価値意識を作品という一種のツールを通して想起させたい。「精神」は人間から発現することを理由として、主なモチーフを人物としている。今後のテーマとして、視野をもっと広げ、『生命』から派生した『精神』はどのような位置づけか、私たちが生きていく中で『生命』『生物』とは何か。命あるものについて深く理解し、自身の考えを交えながらも制作を行い、描写力を高めていきたいと考えている」
白石元郁 Motoka Shiraishi
2002年熊本県生まれ。九州産業大学・芸術学部芸術表現学科・絵画専攻・洋画クラス在学中。「メルク社・スカラシップArt Work With Merck」2023年奨学生。2022年「二十歳の輪郭」展名村大成堂賞・北の大地美術館(北海道)。「第71回延岡市美術展覧会」入選。「東区芸術文化祭:九州産業大学芸術学部作品展」なみきスクエア(福岡)。2024年「甘い追憶」gallery hydrangea。「第4回銀座中央ギャラリー公募展」山本冬彦賞(銀座中央ギャラリー/東京)。「第20回世界絵画大賞2024入選作品展覧会」(東京都美術館)
二人目は長瀬正太さん。彼には偶然銀座の枝香庵で出会ったが、前橋で花火をテーマにした写真家ということで紹介された。というのは私のコレクションを前橋の赤レンガ倉庫に預けコレクター展をするという話が進んでいる時だったからだ。
彼によると「私にとって写真とは、目の前の現実から見たことのない世界を見つけだすための魔法のようなものです。この世界にはカメラを通すことで見つけだせる見たことのない世界がそこら中に溢れているんだ、とワクワクして心が止まらなくなったのです」「2015年より『火の鳥写真』というテーマで打ち上げ花火の写真を撮影しています。1枚の失敗写真と漫画『火の鳥』(著 手塚治虫)のイメージとが結びつくことで始まったシリーズです。今年から挑戦し始めた回転ドローイング法でもこれまでに見たことのない世界が撮れています。今後はそんな世界を少しずつシリーズに纏めて発表させて頂ければと考えています」
長瀬正太 Shota Nagase
1975年、大阪生まれ群馬県前橋市育ち。中京大学体育学部卒業。2014年Creative Japanese Artist in Milan(イタリア)。2014・2016年Photokina World of imaging 阿波和紙ブース(ドイツ)。2018年長瀬正太和紙写真展 ’心’ 阿久津画廊(群馬)。2019年ART OLYMPIA 佳作。2021年EXPO NEW YORK Pier36(米国)。2022年写真=火の鳥 富士フォトギャラリー銀座(東京)。2023年祈りの翼 ギャラリーあーとかん(群馬)。2020・2024年「前橋の美術」アーツ前橋(群馬)。
三人目は山本一輝さん。彼の作品は京都造形芸術大学の日本画の学生時代から見ているが、その後郷里の長野に戻り信州の風景や木などの自然をテーマに清楚な作品にしている。
「もともとアニメーション背景画家を目指していた時期に、日本画に出逢い、自然の描写に画家の慈しい眼差しを感じて、自分でも描いてみたいという思いが芽生えたことがきっかけです。風景を描くことが多く、特に木の描写は種類や季節によって違う表情を描きたいと思っています。水墨は墨を10層程重ねて空気感を出し、岩絵具は天然のものを選び、古典絵画のような渋い色彩を目指しています。自然の中に出かけて行くと、さまざまな美しい瞬間に出逢います。その魅力を絵に描いて表現したいという思いで描いてきました。私自身も絵を見るのが好きで、先輩たちの素晴らしい絵画に感動しながら、自分にも何か出来ることはないだろうかと模索する日々です」と語る。
山本一輝 Kazuki Yamamoto
1994年長野県生まれ。2019年京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)芸術学部美術工芸学科日本画コース卒業。東京、長野、京都、愛知にて個展の他、各地でグループ展に参加。
四人目はそらみずほさん。幼少期からアニメ、漫画、イラスト、切り絵などの影響を受け2006年~2010年ごろまでは切り絵をメインの制作技法としてアニメイラストのようなテイストの作品を制作していたが、2011年Webサイトを運営する会社に就職したことがきっかけでパソコンを使用することが多くなり、デジタルイラストレーションも描くようになった。2014年に発表したデジタルとアナログを融合したミクストメディア作品との出会いが、私とそらみずほさんとの出会いでもある。
「2018年からは、徐々にアクリル絵の具でのみ描いた手描き作品に戻りはじめます。2021年に、日本テレビの企画“明石家さんま画廊”で取り上げられ手描き作品のオーダーが殺到し、完全にアクリル絵の具をメインとした手描き作品にシフト。そして近年は、アクリル絵の具・切り絵・和紙コラージュ(貼り絵)を併用した独自の技法で描いています。テーマは、美しい部分も醜い部分も含めて“人間”が好きで人物画をメインに制作していて、“いろいろな思いを抱えている人間”を“絵としてはできるだけ美しく”仕上げたい思いがあり、その時代その時代の私が“美しい”と思う人物画を描いていくだろうと思います。」
そらみずほ Mizuho Sora
1984年長野県生まれ。2007年群馬県立女子大学文学部美学美術史学科卒業。2010年第5回タグボートアワード 入選。ALBION AWARDS 2010 金賞受賞。2012年第8回世界絵画大賞展 パジコ賞受賞。2015年個展「軌色」(The Art complex Center of Tokyo)。2019年美術新人賞デビュー 入選。2020年個展「浮世」(阪神梅田本店)。2021年明石家さんま画廊(東京タワー)。2022年・2024年個展((ジェイ・スピリット・ギャラリー/京都)。
山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。