-最近気になる若手漆作家-
今回は若手漆作家を4人を取り上げ、制作にあたっての考え方や今後の方向について紹介する。皆さん出身や制作場所は様々だが、今後の活躍が期待される。
一人目は永守紋子さん。鎌倉生まれで京都市立芸術大学美術学部工芸科漆工専攻卒業、金沢卯辰山工芸工房漆芸工房修了。兵庫県で乾漆、螺鈿、蒔絵、器、平面、工芸的な作品など、漆芸の中で技法を問わずに制作していて、最近は、螺鈿や蒔絵などと溜め塗りの絵を組み合わせる作品、そして平面の絵画的表現を多く制作している。彼女の日本橋高島屋での個展で椿の絵柄のお重作品を買って以来注目している。
作品制作に当たっては「漆が透明であることの美しさをテーマにする事が多く、それらの作品は数年経つと下から絵が浮き出てくるように制作しています。漆の黒呂色に見えていた作品も環境によって変化し全く違う作品になり漆が常時変化していることを感じます。本当はずっとそこにあるのに私たちに見えていなかっただけだということに気付かされる、そんな作品を作っていければと思います。」と言う。
永守紋子 Ayako Nagamori
1983年鎌倉に生まれ兵庫県にて育つ。2005年京都市立芸術大学美術学部工芸科漆工卒業
2008年金沢卯辰山工芸工房漆芸工房修了。
2011年 個展(GALERIE CENTENNIAL)大阪 以降毎年全国で個展。
2014年 The stories from fingertips, Talking with eating tools. (Vogoze) ソウル
2015年 日本漆山脈(阪急百貨店梅田本店)大阪 ’17’19
2018年 女性作家六人展(MITSUKOSHI日本橋本店 本館5階 スペー#5)東京
2019年 日本漆山脈(うめだ阪急百貨店9階)大阪
2020年 「漆ウルトラ」展(高島屋美術画廊 日本橋店 京都店 大阪店)
2022年 個展「See」(art space morgenrot)東京
2023年 個展「夜は暗いから」(日本橋高島屋美術工芸サロン)東京
二人目は佐野圭亮さん。群馬県高崎生まれ、幼少期よりものづくりに興味をもち、木工道具を用いて工作を経験する中、特に日本の伝統的な技巧を凝らしたものづくりに魅了されていく。東京藝術大学美術学部工芸科漆芸専攻卒業、同大学大学院修了。
その後地元高崎市内に構えた工房を拠点に創作活動に専念。彼の作品を初めて見たのは銀座のギャラリー田中でのグループ展で大きな人物の立体作品が印象深い。「あくまで工芸の地盤とも言える技術的な部分に軸足を据え伝統技法に則った上での新しい表現を模索しています。漆も生命由来の塗料であることから自然や分子生物学、宇宙の大規模構造などミクロとマクロの世界が見せる相似形や物質の相補作用をモチーフにして自身の造形、及び創作のテーマにしています。」と漆芸作家としては珍しい群馬で制作している。
佐野圭亮 Keisuke Sano
1994 年群馬県高崎生まれ、幼少期よりものづくりに興味をもち、木工道具を用いて工作を経験する中、特に日本の伝統的な技巧を凝らしたものづくりに魅了されていく。
2017年東京藝術大学美術学部工芸科漆芸専攻卒業
2020年 同大学大学院修了
2019年より地元高崎市内に構えた工房を拠点に創作活動に専念。
三人目は藤原愛さん。石川県金沢市出身で、富山大学芸術文化学部デザイン工芸コース卒業、同大学芸術文化学研究科芸術文化学専攻修士課程修了後、金沢卯辰山工芸工房修了し金沢を拠点に制作している。彼女の作品はグループ展などで見ていて記憶に残る作家だ。
制作にあたっての姿勢は「主に乾漆技法を用いて箱物(茶器や飾り箱)や酒器、アクセサリー等を制作しており、加飾には蒔絵や螺鈿技法を使用しています。日々生活している中で感じた自然の風景、植物の形や色、四季それぞれの空気などを作品の形や模様に落とし込み制作しています。漆作品は厳かな空気を放ち触れる時には緊張感があるものだと思っています。その漆独特の雰囲気を壊さず、観て触れてもらえる作品、身近な空間に馴染むような作品作りを目指しています。最近では漆黒をみせる表現の他に漆や貝の色味を変えてみたり、蒔絵の方法も変えてみたりと表現したいものはどの方法を取るべきか日々模索し制作しています。」と語る。
藤原愛 Chika Fujihara
1992 石川県金沢市出身
2015 富山大学芸術文化学部 デザイン工芸コース 卒業
2017 富山大学芸術文化学研究科芸術文化学専攻修士課程 修了
2020 金沢卯辰山工芸工房 修了
2022 藤原愛展―はなのえん―(日本橋高島屋S.C.本館2階アートアベニュー/日本橋)
KOGEI Art Fair Kanazawa 2022(ハイアットセントリック金沢/金沢)
2023 瀟洒なるかたち(日本橋高島屋S.C.本館6階美術画廊/日本橋)
2024 うららかな景色vol.3(art&space morgenrot /南青山)
現在 金沢市内にて制作
四人目は多賀直さん。北海道生まれで、金沢美術工芸大学工芸科を2023年に卒業し、2024年卯辰山工芸工房漆芸工房に入所。彼の作品との出会いは京橋のギャラリーb-tokyoの個展。
実物大の人物などの作品があり、現代アート系の彫刻作品かなと思ったが、金沢美大の漆芸作品だと知って驚いたが、彼の説明で納得した。「私は古着を漆で固めた立体作品を主に制作している。また制作過程や原型などの素材に、可能な限り廃材や再利用可能なものを用いて制作している。結果として古着を使用した人型の*脱活乾漆像の制作を始めた。また、古着を用いた人型の脱活乾漆像を制作していくにしたがい、作品に精神性や生命感を感じるようになった。それは、単に脱活乾漆技法がかつて仏像などに用いられた技法だからというわけではなく、漆という生命感のある素材で自身の古着を包み込むことで、作品に『私』という存在が内在し精神性が生み出されていると思われる。また、人が空気をまといながら呼吸し生命活動を行うように、作品を脱活乾漆像にすることで、漆が作品の表層と内層を皮膚のように覆い漆が呼吸を行う。そうした部分に私は生命感を感じているからだ。」「当初はかなり古典的な乾漆性の箱などを好んで制作していましたが、今後については技術を深めていくうちに様式的な美よりも技術によって素材の美しさそのものに迫るものづくりへと変化していきました。現在では漆芸の領域の中でも主に乾漆を中心とした人物造形と螺鈿や蒔絵などによる細密な加飾を組み合わせた作品を制作しています。」と語る。
*脱活乾漆像:粘土で原型をつくり、その表面に麻布を貼り固めたのちに、像内の粘土を除去して中空にするとともに、麻布の表面に漆木屎を盛り付けて塑形する技法。やわらかく軽やかな表現に向いており、仏像などの写実像によく利用される。
多賀直 Nao Taga
1999年北海道生まれ。2019年金沢美術工芸大学工芸科に入学、2023年卒業。
2024年卯辰山工芸工房漆芸工房に入所。
2022 年「epoch- 漆部屋展」金沢市民芸術村。2023年「LOCUS」つばきや個展、
「PREFACE」GALLERY b. TOKYOグループ展。2024 年「SICF25」SPIRAL
受賞歴
2023年リサイクルアート展 優秀賞。2023年金沢美術工芸大学卒業制作展 招聘審査員特別賞(長谷川祐子氏)。2022 年 Van Cleef & Arpels Designs Scholarship 奨学生。
山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年、佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。