アーティスト

平山悠羽インタビュー
──見たいものを見せる、曖昧な輪郭

「shades」DM画像
東京・日本橋のREIJINSHA GALLERYでは、グループ展「shades」が7月12日(金)から開催される。展覧会タイトルが示すのは、10名の作家によるさまざまな「曖昧な影」。実像の捉え難い存在は、時にその輪郭を変え、鑑賞者の想像力を刺激する。
本展に出品する平山悠羽ゆうの作品も、観る者の遠い記憶を呼び起こす。彼が描く植物や人物などのモチーフは、模様入りのすりガラス越しに揺らぎ、明確な像を結ばない。それによって、ガラスの向こう側を強く想像させ、それぞれの記憶の中の鮮やかなイメージへと導くのだ。
平山は、すりガラスや窓を通して何を描き出そうとしているのか。百兵衛編集部は、作家に話を聞いた。

平山悠羽《花のイメージ Ⅰ》

──ガラス越しの風景を描く理由を教えてください。

僕自身の経験なのですが、ガラスの向こうに置いた物が昔飼っていた猫に見えた瞬間がありました。無意識の中にもう亡くなってしまった猫の存在が日常化していて「ここにいないのにいる」という感覚になったのです。
その体験から、ガラス自体の存在が曖昧になる時に、鑑賞者にとっての「見たいもの」がそこに見えるのではないか、と考えています。

 

──なるほど、実在しないものがガラスを通して見えたような感覚を体験されたのですね。
では、平山さんの作品において、ガラス越しの奥に見えるモチーフにはどのような意味があるのでしょうか?

モチーフには意味を持たせないようにしています。
モチーフに意味を与えると、ガラスを通して曖昧になったものが明確になってしまいます。せっかく曖昧になったのに。
だから、ガラス越しのモチーフは直感的に選ぶことが多いです。重要だからとか、こういう意味があるからとか、そういうことではなく、あくまで自分が生きている中で見かけた美しい景色やものを選んでいます。

 

──自分の身近なものの中からモチーフを選んでいるのですね。それはなぜですか?

茶道や禅の思想に興味を持ったことがきっかけです。お茶の文化には、自分の手の届く範囲にある身近なものから美しさを見出して解釈するという感覚があります。
すりガラスや窓は、僕の身近にあるもの。それに気付き、もしかするとこれが絵画になるのでは?と思ったのです。

 

──平山さんの作品は、生活や日常といった言葉がキーになっているようですね。

はい、そうです。人間の生活や営みがコンセプトで、生きていく中で手の届く範囲にあるものの美しさを描きたいと思っています。

 

──では、すりガラスや窓という日常的なものを通して、人間が生活している“あかし”のようなものを描き出しているということなのでしょうか?

かつて人間は、狩猟採集をしながら移動を続けて生きていましたよね。特定の場所に定住するようになったことで、昔は洞窟の穴、今は窓から外の様子や他者を見る行為が生まれました。その行為は今も変わりません。生まれてから死ぬまで、窓の外を見るという行為は普遍的な人間の営みの一つだと思うのです。

 

──先ほどの話にもあったように、平山さんの作品は日本的な思想から生まれたものだということですが、ガラスという西洋から伝えられたものをモチーフに選んだのはなぜでしょうか?

日本には障子の文化がありますよね。西洋からガラスが入ってきて建築に用いられるようになったわけですが、透明なガラスは障子に比べて室内に光が入りすぎるということで、すりガラスとして加工されたのではないかと思います。ですから、すりガラス自体が日本的なものなのです。海外から取り入れたものを、暮らしに合うように改良するということが日本らしくておもしろいですよね。
また、すりガラスには、遮ることと装飾性という、「見せる/見せない」の矛盾する性質が存在しています。
一方で、油絵という西洋から入ってきた技法で日本的なモチーフを描くという僕のスタイルにも、相反する要素が混ざり合っているのです。
そういった部分は共通しているのかもしれません。

平山悠羽《shadow》

平山悠羽《shadow》

 

──ここまで、平山さんの作品に描かれている「ガラス」と「その奥にあるもの」のそれぞれについて説明していただいたことで、鑑賞体験に深みが出る理由が分かりました。

僕の作品にはガラスとその奥の存在、そして何が映し出されているのかという鑑賞者の想像、という三つのレイヤーがあるのだと思います。
さらに、僕の手を離れた時に、鑑賞者のもとで新しい解釈が生まれます。ビジュアルから想像のきっかけを生むということが、絵画にできることなのだと思います。

 

──グループ展「shades」の出展作も、鑑賞する人ごとにさまざまな解釈を楽しめそうですね。

はい。新作2点と過去作数点を出展します。
いろいろなタイプの、いろいろなテーマの作品を観ていただけるかと思います。

 

──最後に、今後挑戦したいことがあれば教えてください。

先にもお話ししたように、僕の大きなテーマとして、生活・営みの中から手の届く範囲の景色で制作する、ということがあります。今のところ取り組んでいるのは「衣食住」でいう「住」の部分だけですが、「衣」と「食」のシリーズもいつか描きたいなと思っています。
そして、それらをまとめて「衣食住」で構成した展示にしてみたいです。

平山悠羽《憂鬱な夜 Ⅰ》

 

[Profile]
平山悠羽
Yu Hirayama

1994年 大阪生まれ
2017年 個展「まざる」(京都造形芸術大学)
2018年 京都造形芸術大学卒業
2019年 個展「平山悠羽展」(神戸元町歩歩琳堂画廊/兵庫)
2021年 個展「小さくて大きい世界」(ギャラリーサイハテ/兵庫)
個展「イメージの探究」(神戸元町歩歩琳堂画廊/兵庫)
まなざしとフィソロフィ(awaiya books/大阪)
2022年 個展「平山悠羽展」(神戸元町歩歩琳堂画廊/兵庫)
2023年 study:大阪関西国際芸術祭アートフェア2023(グランフロント大阪)
MITSUKOSHI ART WEEK(日本橋三越本店/東京)※’22年出展
KOBE ART MARCÉ 2023(神戸メリケンパークオリエンタルホテル/兵庫)
ART TAIPEI 2023(台北世界貿易中心/台湾)
2024年 個展「景色の営みは続く」(京都蔦屋書店)
東風凍りを解く East wind unfreezes(奈良蔦屋書店)
shades(REIJINSHA GALLERY/東京)
現在、大阪にて制作

[information]
shades
・会期 2024年7月12日(金)~7月26日(金)
・会場 REIJINSHA GALLERY
・住所 東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル 1F
・電話 03-5255-3030
・時間 12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
・休廊日 日曜、月曜、祝日
・URL https://linktr.ee/reijinshagallery

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