会場:彫刻の森美術館 | 会期:7/26(金)~ 11/4(月・休) |
自分と出会う場、自分と向き合う時間
開館55周年を迎える神奈川県箱根町の「彫刻の森美術館」では、彫刻家・⾈越桂(1951~2024年)の展覧会が7⽉26 ⽇(金)~11⽉4⽇(月・休)の会期で開催される。
⾃然の中で⼈々と芸術家が交流する場として誕⽣した⽇本で初めての野外彫刻美術館である彫刻の森美術館。作品は芸術家の⾔葉であると考える同館が、2023年3⽉、⾈越桂に開館55周年を記念する展覧会を依頼したことからこの展覧会の企画が始まり、準備が進められてきたが、今年3⽉29⽇に⾈越が亡くなった。しかし、最期まで展覧会の実現を望んでいた作家本⼈の意思と、遺族の意向を尊重し、この「舟越桂 森へ行く日」が開催されることとなったのである。
〜森へ⾏く⽇〜
「遠い⽬の⼈がいる。
⾃分の中を⾒つめているような遠い⽬をしている⼈がときどきいる。
もっとも遠いものとは、⾃分⾃⾝なのかもしれない。
世界を知ることとは、⾃分⾃⾝を知ることという⼀節を思い出す。
私が感じている⼈間の姿を代表し、象徴してくれるような個⼈に出会った時、
私はその⼈の像を作ってみたいと思う。」
(創作メモより)
遠くを⾒つめるまなざしを持った静かなたたずまいの⼈物像で知られる彫刻家・⾈越桂。
この展覧会は、⽣涯を通じて⼈間とは何かを問い続けた彫刻家の作品の変遷とその創作の源となる視線に迫るものだ。
聖⺟⼦像や性別を感じさせない静謐な空気をまとった⼈物像は、その後、⼈間という存在の⼤きさや不思議さを象徴する⼭のようなイメージの⼈物像や、「祈り」の思いや⾏為に⼈間の姿を与えたという考えに⾄った『⽔に映る⽉蝕』(2004年)、そして東⽇本⼤震災がきっかけとなって制作された『海にとどく⼿』(2016年)、さらに両性具有の⾝体と⻑い⽿を持った、⼈間を⾒続ける存在としての「スフィンクス」のシリーズへとたどり着く。⼀貫して⼈間の存在をテーマにしながら、さまざまに変容を遂げる作品を、⾈越は⾃ら「⼼象⼈物」と名付けた。
「⼿と⽬と頭を使って⼈間の像を作ることで、思考だけでの理解を越えて、⼈間を把握することに変わっていかないだろうか。その時間のつみかさねで、私も⼈間について考えていると思いたい。」──『⾔葉の降る森』⾓川書店
具体的には⽬に⾒えない、しかし現実に⼈間がそのまわりに抱える問題、祈りや思いなどに⼈間の姿を与えながら、⼈間について考えることで⾈越は「⼈は皆それぞれ、たった⼀度の⼈⽣を⽣きていく初めての存在なのだ」ということを証明するための物語を紡ぎ出そうとしていたのではないか。
⾃分と出会う場として、⾃分と向き合う時間として、この展覧会は鑑賞者の心に届くだろう。
展示構成・見どころ
展⽰室1 ー 僕が気に⼊っている ー
⾈越は、いつも⾃⾝が気に⼊っているものに囲まれていた。そしてそこには、必ず⾈越の⼿ざわりの跡が残されている。それはアトリエであっても、どこであっても変わることはなかった。
代表作のひとつ『妻の肖像』(1979-80年)は、⾈越のアトリエに⼤切に置かれている。展⽰室1の前半部分では、⽇々の創作活動を垣間見ることができるデッサンやメモ、⾈越が実際の制作に使っていた⼿製の作業台やデッサン⽤の⼀本⾜のイスなどが展⽰される。
展⽰室1の後半部分では、病室の窓から⾒える雲がきっかけとなって⽣まれた「⽴てかけ⾵景画」を展⽰。厚紙の裏に鉛筆で描かれた幻想的な⾵景画を⾈越は繰り返し描いては、⾷事で出されるヨーグルトのカップで作った台に⽴てかけて眺めていたという。
展⽰室2 ー ⼈間とは何か ー
「⽇々、世界で起こる戦争や紛争には怒りや憤りを感じます。しかし⼈にはそれぞれ役割があり、⾃分は怒りや悲しみをぶちまけるのではなく、⼈間の存在を肯定していきたいのです。」と語る⾈越は、⼈々が抱える孤独や⽭盾、⼆⾯性にも⽬を向けた。
展⽰室2は、「⼈は⼭ほどに⼤きな存在なのだ」と感じた体験がもとになって⽣まれた彫刻『⼭と⽔の間に』(1998年)、「相反する⾃分」という考えから⽣まれた胴体が後ろ前の⼈物や、⽀え合って⽣きる⼈間の姿を描いたドローイング『雪の上の影』(2002年)などで構成される。
展⽰室3 ー ⼼象⼈物 ー
すでに紹介したように、⼀貫して⼈間の存在をテーマにしながらさまざまに変容を遂げる作品を、⾈越は⾃ら「⼼象⼈物」と名付けた。最初のイメージから⾔葉が⾒つからないままに制作を始めた『⽔に映る⽉蝕』(2004年)について、⾈越はのちに“浮く”というイメージを⾒出し、「それは現実から少し解き放たれることであり、そうであればそれは“祈り”の思いや⾏為に姿を与えたのかもしれない。」と語っている。
展⽰室3では、東⽇本⼤震災がきっかけとなって制作された『海にとどく⼿』(2016年)、⼈間のすることを丘の上から⾒続けているスフィンクスをイメージした『戦争を⾒るスフィンクスⅡ』(2006年)などで構成される。
「世界を知るとは?」というスフィンクスの問いかけに「⾃分⾃⾝を知ること」と少⼥が答えるノヴァーリスの小説『青い花』の一場⾯に感銘を受けた⾈越は、両性具有の⾝体と⻑い⽿を持った、⼈間を⾒続ける存在としての「スフィンクス」を題材にした作品を多く残した。
展⽰室4 ー『おもちゃのいいわけ』のための部屋 ー
1997年に『おもちゃのいいわけ』という⼀冊の本が⽣まれた。⾈越が家族のために作ったたくさんのおもちゃたちが、姉・末盛千枝⼦によって出版されたものである。⻑く愛され続けてきたこの⼀冊が、今回の展覧会に合わせて27年ぶりに増補新版として刊⾏されることになった。展⽰室4は、その刊⾏を記念して『⽊っ端の家』や『クラッシックカー』といった往年のおもちゃたちとともに、新たに本に加わるものの中から『⽴ったまま寝ないの!ピノッキオ!!』(2007年)、『あの頃のボールをうら返した。』(2019年)などで構成される。
そして、⼊院中も絶えず描いていた創作のためのイメージデッサン。創作の源ともいえるその貴重な内容が、⾈越が⾃ら語った映像で紹介される。
■舟越桂 主な略歴・受賞歴・展覧会歴
略歴
1951年 岩⼿県盛岡市⽣まれ
1975年 東京造形⼤学彫刻科卒業
1977年 東京藝術⼤学⼤学院美術研究科彫刻専攻修了
1986-87年 ⽂化庁芸術家在外研修員としてロンドンに滞在
2024年3⽉29⽇没(享年72歳)
受賞歴
1995年 第26回中原悌⼆郎賞優秀賞受賞
1997年 第18回平櫛⽥中賞受賞
2011年 紫綬褒章受章
展覧会歴
1988年 「第43回ヴェネチア・ビエンナーレ」イタリア
1992年 「ドクメンタIX」カッセル、ドイツ
2003-04年 「⾈越桂Works: 1980-2003」東京都現代美術館/栃⽊県⽴美術館/北海道⽴旭川美術館/⾼松市美術館/岩⼿県⽴美術館/広島市現代美術館
2008年 「⾈越桂 夏の邸宅 アール・デコ空間と彫刻、ドローイング、版画」東京都庭園美術館
2012年 「開館25周年記念展 ⾈越桂2012 永遠をみるひと」メナード美術館
2015-16年 「⾈越桂 私の中のスフィンクス」兵庫県⽴美術館/群⾺県⽴館林美術館/三重県⽴美術館/新潟市美術館
2020年 「⾈越桂 私の中にある泉」渋⾕区⽴松濤美術館
彫刻の森美術館について
四季折々の雄⼤な⾃然が楽しめる箱根。彫刻の森美術館は、その⾃然を⽣かして1969年に開館した、国内で初めての野外美術館である。緑豊かな屋外展⽰場に、近・現代を代表する彫刻家の名作約120点が常設展⽰されている。また、ピカソ館をはじめとする室内展⽰場や⼦どもたちが体験できる作品、天然温泉の⾜湯(2024年7⽉27⽇ リニューアル)もあり、⼼豊かな憩いのひとときを過ごすことができる施設だ。
■彫刻の森美術館 名作コレクション+舟越桂選
7月6日(土)〜12月1日(日)の日程で、彫刻の森美術館コレクション2,000点余りの中から近・現代彫刻の優品が時代の流れに沿って展⽰される。また、「⾈越桂 森へ⾏く⽇」に関連して、⾈越桂とゆかりのある現代作家の作品が選りすぐって紹介される。現代へと続く彫刻の展望を眺められる機会となるだろう。
「みなさんそれぞれに、僕には思いつかない姿や形の作品を提⽰してきています。
それがどんなことから来ているのかが気になる作家です。そんなことを考えて選ばせてもらいました。」舟越桂
[information]
彫刻の森美術館 開館55周年記念「舟越桂 森へ行く日」
・会期 7月26日(金)~ 11月4日(月・休)
・会場 彫刻の森美術館 本館ギャラリー
・住所 神奈川県足柄下郡箱根町ニノ平1121
・時間 9:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
・休館日 なし(年中無休)
・入館料 一般2,000円、大学・高校生1,600円、中学・小学生800円
※未就学児無料
※並ばずに入館できるWEBチケットあり(一般1,800円、大学・高校生1,400円、中学・小学生600円)
※WEBチケット購入ページはこちら
・TEL 0460-82-1161
・URL https://www.hakone-oam.or.jp