大阪の夏を彩る現代美術のアートフェア「ART OSAKA」。国内の現在進行中のアートフェアで最も長い歴史を持ち、若手や中堅アーティストらの動向を見ることのできる場として親しまれてきたこの催しは、今年で21回目を迎えた。
昨年より1ヶ月ほど遅い開催時期となり、暑さが懸念された今年のART OSAKAだったが、Galleriesセクション(7月28日から7月30日 ※28日は招待、プレスのみ)、Expandedセクション(7月26日から7月31日)とも成功のうちに幕を下ろした。
それはGalleriesセクションに2680名、Expandedセクションのクリエイティブセンター大阪に2490名、kagooに2010名が訪れたことからも明らか。この数字は、2022年のGalleriesセクション2400名、Expandedセクション2300名を上回る数となった。
美術屋・百兵衛編集部は、このアートフェアのうち、Galleriesセクションを取材した。
会場となった中之島は、大阪を代表する文化エリアであり、大阪市中央公会堂はそれを象徴する歴史的建造物だ。1918(大正7)年に竣工して以来、大阪の文化・芸術の発展に深く関わってきたこの建物は、2002(平成14)年に、国の重要文化財として指定された。
この大阪市中央公会堂を舞台とする、Galleriesセクションで出展しているギャラリーは、今回総勢46軒。その中から、3軒のギャラリーをピックアップし、話を聞いた。
capacious
capaciousは大阪府内の障がいのあるアーティストの作品を現代美術のマーケットに紹介するプロジェクト。「capacious」という英語を直訳すると「容量の大きい、包容力のある」という意味になるが、大きな仕切りのない袋をイメージして名付けられたという。
現代アートの歴史や言葉による縛りなど既成の枠組みを取り外し、作品を純粋に鑑賞することで広がる可能性を追求しているcapacious。このブースで目に留まったのが、柴田龍平の作品。数字を書き続けつことで生まれた作品を発表している。
柴田作品について、アートマネージャーの田中清佳に話を聞いた。
田中:「ここに描かれた数字は、CDアルバムに記載されている1曲ずつの時間の長さを記憶されており、それを書き出しているものです。ただ、近年のものに描かれている数字は少し変わっています。おそらくスマートフォンで検索した音楽のアルバムの総時間数を記されているようになったと思われます」
フランス人の画家、ジャン・デュビュッフェが提唱した「アール・ブリュット」や、美術批評家のロジャー・カーディナルの「アウトサイダー・アート」という言葉を聞き覚えのある人は多いだろう。しかし日本ではそれらが、一般的な「現代アート」と肩を並べることは少なく、むしろ障がい者の支援といった福祉的な視点で取り上げられることが多い。
こういった日本のアートシーンにおいて、capaciousは柴田をはじめとする作家たちの作品が、純粋なアート作品としてコレクションされていくことを目指している。実際、ART OSAKA初日の内覧会の時点ですでに“売却済み”を示す、赤いシールが貼られていた。
柴田の圧倒的な作業量は、我々の網膜に焼き付いて離れない。彼の作品が放つ魅力、そしてパワーは、障がいの有無に関係ないことがこのART OSAKAで示されたのだ。
DMOARTS
大阪市にあるDMOARTSは、現代アートを中心に展開するアートギャラリー。DMOARTS代表の高橋亮には、ART OSAKAの独自性について聞いた。
高橋:「ART OSAKAは、コミュニケーションの場でもあります。他のアートフェアと比べてもアットホームな雰囲気があるように感じています」
作品購入の場であることはもちろんだが、大阪という街の温かみがこのフェアの特徴になっているようだ。
「それがここまで長く続いている一つの理由だと思います」と、高橋は続けた。
この中央公会堂は前述したように、歴史的に貴重な建造物。そのため、壁や天井、床などを傷つけないよう、ブース展示に欠かせないパーテーションには高さ制限が設けられている。
そのせいか、DMOARTSが展示していた西側の部屋は、自然光がふんだんに取り入れられ、天井近くの高い位置に取り付けられた美しいステンドグラスを楽しむこともできる。
「この展示場所を気に入っている」と話すのは、DMOARTSから出展していた木津本麗だ。
京都芸術大学大学院を今年修了したばかりだが、ARTISTS’ FAIR KYOTO 2022や3331 ART FAIR 2022に出展するなど、今注目の若手作家だ。
抽象化された画面を主に色面で構成する手法を取り、油彩はもちろん、アクリル絵具、フェルトなども表現の一部とする作品を制作してきた。
そんな木津本も、「ART OSAKAは温かみがあるフェアだと思う」と言う。
作品を購入できる場所であると同時に、作品を介して作家やギャラリストとコミュニケーションが取れるというのが、アートフェアの醍醐味だ。そんな中、近年、日本でも各地でアートフェアが開催されるようになったことで、これまで以上に「このフェアならではの魅力」を、アートファンたちは求めているのではないだろうか。街とアートが一体となるART OSAKAは、フェア自体のファンを獲得している好例だ。
また、こういったフェアが長く開催され続けていること自体が、非常に意義深い。
なぜならアートフェアを開催し成功させることで、アートマーケットの活性化はもちろんのこと、人口減少が叫ばれる「地方」に若者を呼び込むこともできるからだ。ART OSAKAの舞台は大阪だが、これを一つのロールモデルとして地方自治体の取り組みにも活かしていってほしいと願う。
・URL https://dmoarts.com
AKI GALLERY
続いて、台湾から参加しているAKI GALLERYのマネージャー・Jill Hongには、国際的な視点でこのフェアについて語ってもらった。
Jill Hong:「海外のアートフェアでは大きな作品もよく売れます。日本では、小品が人気なようです。飾るスペースが狭いという話をよく聞きます。
また、日本では作品や作家の人気には偏りがありますが、台湾はより多くの人が幅広いタイプの作品を好む傾向にあります。特に、日本人作家の作品は台湾でとても人気です」
同ギャラリーは、台湾、日本そして2019年にオープンしたドイツのスペースと、3カ国を拠点にしている。そのため、今回は台湾とドイツから作家をピックアップしたと言う。
出展者の一人、台湾人でマレーシアでも活動するHsin-Ying Liuは、時代性が直接的に反映された作品を発表した。それは、コロナ禍の活動自粛期間に、自身が窓から眺めていた景色を窓と同じ大きさのキャンバスに描いたもの。作家の目に映った風景は、鑑賞者の記憶とも重なったことだろう。マレーシアで長年生活したことで培ったと思われる、温暖の土地特有の華やかな色彩も特徴的だ。
ART OSAKAに長年出展しているAKI GALLERY。他の日本国内でのフェアとの違いについて聞くと、「東京と比べて大阪の人は情熱的です」という答えが返ってきた。
その真意は「言語の壁があっても積極的にコミュニケーションを図ろうとするのがART OSAKAの特徴」とのこと。関西ならではの空気を体感しているそうだ。
・URL https://www.galleryaki.com/zh/aki
国内外の人気ギャラリーが集うART OSAKA。
2025年の万博開催に向けて、アート振興の機運が高まりつつある中、今回も、アートフェアの常連から現代アート初心者まで、幅広い層が楽しむことができる内容となっていた。
22回目の開催が今から楽しみだ
では最後に、主催者側からのコメントを紹介しよう。
猛暑の中での開催でしたが、アクセシビリティーを向上させ多くの方にお越しいただくことができました。
今回も、大阪が誇る重要文化財や近代化産業遺産を活用した特徴のある会場に、若手から美術界を牽引するベテラン作家までが集結し、現代美術を堪能できる6日間となりました。
今後も新たな作品との出会いの場、力量のあるアーティストの発表の場を拡張していきたい所存ですので、来年もぜひご期待ください。
[information]
ART OSAKA 2023
※このイベントはすでに終了しています。
■Galleries セクション
・会期 2023年7月28日(金)〜30日(日)※28日(金)は招待、プレスのみ
・会場 大阪市中央公会堂 3階(大阪市北区中之島1-1-27)
■Expanded セクション
・会期 2023年7月26日(水)〜31日(月)
・会場 1.クリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地、大阪市住之江区北加賀屋4-1-55)/2.kagoo(大阪市住之江区北加賀屋5-4-19)
■URL https://www.artosaka.jp/2023/jp/