──書は決して難しくない。
日本は中国書の伝統を受け入れ、発展させ、かな文字という日本独自の文字を生み出してきた。しかし平成に携帯電話が普及すると、文字を書く機会がめっきり少なくなり、自筆で手紙を書く人も激減。さらに、コロナ禍以降はリモートワークが普及するなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が急速に進んでいる。そんな今こそ、「心に響く『書』の本質」に立ち返る時ではないだろうか。知れば知るほど面白い、日本と中国の書文化を学ぼう。
(以下は書籍『THE 書法』から、一部を抜粋して掲載/記事内の情報、写真等は2010年現在のもの)
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探求・文房四宝──筆紙硯墨 文房四宝の源流を訪ねる中国の旅
宣紙
「中国の紙」の代名詞となった宣城の紙 (前回=2022年11月28日更新分より続く)
大判の書道用紙を日本では画仙紙と呼ぶが、元々これは中国の宣紙から生まれた言葉だ。中国の安徽省逕県の宣城という場所で生産された紙が優れた品質だったためにこの名が付いた。
宣紙の主原料は青檀樹と呼ばれる木の皮で、これに稲藁または逕県周辺で収穫される草が用途に応じ一定の割合で混合される。「棉料」という一般的な宣紙は、藁が6〜7割に対し、檀皮が3〜4割配合されたものだ。
唐代初期に発明され1400年近い歴史を持つ宣紙は丈夫で耐久性に優れ、色は玉のように白く、墨の付きが良く、今も多くの書家たちに愛用されている。
世界に誇る宣紙ブランド「紅星牌宣紙」
中国はもちろんのこと、日本やその他の国でも一流の宣紙として知られている「紅星牌宣紙」。文房四宝のルーツを求めて中国に渡った我々取材陣は、この有名な紙を作っている中国宣紙集団公司の工場(宣紙廠)を訪ねた。
中国宣紙集団公司は世界最大の宣紙会社。ここで生産された製品の約30%が日本に輸出されていることからもわかるように、「紅星牌」は中国のみならず、世界的にも有名な宣紙ブランドだ。その工場がある場所は、安徽省逕県。工場の周囲の山肌は深い緑に染められているが、その一部は白い。これは冬に収穫された檀皮(青檀樹の樹皮)や稲藁が天日に晒されているのだ。その風景を見ると、ここがまさに宣紙の故郷だということがわかる。
現在建っている工場は2007年に建設された比較的新しいものだが、ここでは1960年代の製法が50年経った今も伝えられている。とは言え、宣紙の製法そのものは数百年間ほとんど変わらず、50年前に作業の一部が機械化(電化)されたぐらいだ。
原料である檀皮や稲藁の収穫から、天日干し、原料の選別と検査、洗浄、混合、紙漉き、乾燥、裁断といった一連の作業の大部分が、人間の目と手によって進められる。部分的に機械が用いられることもあるが、そうした工程で作られる製品は一般向きのもの。書家の雅号や模様を刺繍した手漉き用の竹簾などが使われる高級宣紙は、すべて20年以上のキャリアをもつベテラン職人の手作業で作られているのだ。
現在この宣紙工場では製造を行うと同時に、観光客のためにその工程を公開しており、中国語ではあるが説明役のスタッフも常駐している。見学は無料だが、25元(日本円で300円強)払えば自分の干支の模様が入った宣紙を作る「手漉き」体験もできる。また、同じ建物にショップが併設されているので、世界の「紅星牌」ブランドが工場直販価格で購入することも可能だ。
広大な敷地をもつ中国宣紙集団公司の入口。ここで作られた宣紙は、北京オリンピックの開会式典時に使われるなど、国家の重要な行事にも度々登場している。また、工場のスタッフのうち幾人かは中国全土を巡る聖火ランナーに抜擢され、逕県周辺のコースを走った。
(次回に続く)
※この記事は2010年11月30日に発行した書籍「THE 書法」の内容を再掲載したものです。社会情勢や物価の変動により、現在の状況とは異なる可能性があります。
THE 書法
発行:麗人社
発売:ギャラリーステーション/価格:本体3,619円+税
仕様:A4判・500ページ/発行日:2010年11月30日
ISBN:978-4-86047-150-7