コラム

わたしの気になる作家たち
No.13

ー注目の若手男性画家ー


最近は女性画家の活躍が目立つが、今回は注目の若手男性画家を紹介する。

まずは中村勇太。1992年静岡県浜松市出身。京都市立芸術大学美術学部美術科日本画専攻卒業後、京都西陣の京繡工房に入社。京繡職人の卓越した技術を肌で感じながら日本の伝統的な図案・文様を学ぶ。その間に、碧い石見芸術祭全国美術奨学日本画展、個展「#plants」(画廊後素堂/京都)、最近では八犬堂など数多くのグループ展に参加。現在は国内外の植物や生き物を題材に、花鳥画に於ける吉祥的な装飾性/寓意性、自然と人間との関わりやそれらがはたらきかける記憶や思い出の想起に着目し制作に取り組んでいる。

中村勇太《柴犬に浜松張子》画像

中村勇太《柴犬に浜松張子》

「幼い頃、自然に囲まれた日々を過ごしました。虫網片手に田んぼや用水路を駆けまわり、そこに息づく様々な生命に触れる。朝露を乗せた葉っぱや虹色に光るいきものたちの姿が何よりも美しいと感じました。写生にはじまり、自然界に存在する様々な鉱石を用いて制作する日本画のプロセスに、それらの記憶を思い出します。生命と誠実に向き合い、ひたむきに手を動かす。そこから一歩踏み込んだ先に自分の捉えた美しい世界が表現できるのではないか。絵具という素材としての役割を越え、質感や息遣い、温度や匂いへと昇華させる…そこに辿り着く道筋を模索しています」と語る。

中村勇太《瓢箪文に蝶尾》画像

中村勇太《瓢箪文に蝶尾》

二人目は鈴木琢未。1995年東京生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程 修了。学生時代から注目し、公募「日本の絵画2016」入選展(永井画廊/東京)、「グループ ホライゾン」(髙島屋) 、新生堂やGallery MUMONでの個展・グループ展などで見るちょっと毒気のある作品が好きで、私の企画展にも何度も参加してもらっている。

鈴木琢未《告ぐ》画像

鈴木琢未《告ぐ》

「自分の内面と外の世界をテーマに、痛みや傷、孤独感といった感覚を掘り下げていきたいと思いながら制作しています。社会や現実が隠す美的なものをこれからも絶えず追求していきたい」と言う。出身は日本画だが、以下のような考え方で多様な展開をしている。「多摩美では日本画を専攻しており、学生の時は日本画材を用いて人物画を中心に制作していました。大学4年生の時に千住博先生の日本画門下グループにお誘いいただき、多種多様なグループメンバーの作家方の作品に触れ、日本画という言葉のしがらみから解放されました。そこから私も日本画材にこだわることなく、その時々に描くモチーフの種類や作品のスタイルによって画材を変え、今に至ります。画材の持つそれぞれの特性を活かし、且つ、自分が得た感動を真摯に画面に写し取ることを心がけています。」

鈴木琢未《Life》画像

鈴木琢未《Life》

三人目は桜井旭。1996年兵庫県明石市生まれ。金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科油画専攻を卒業し、同大大学院美術工芸研究科博士後期課程絵画分野在籍。学部時代から積極的に活動し三菱商事アート・ゲート・プログラム奨学生、神山財団 芸術支援プログラム 第7期生、アートオリンピア2022学生賞、金沢美術工芸大学卒業・修了制作展KANABIクリエイティブ賞2021 学長賞(作品買上げ)、FACE2022入選。その間個展5回、グループ展には数えきれないくらい参加するなど驚異的な発表を継続している。

桜井旭《The disappearing city Ⅷ》画像

桜井旭《The disappearing city Ⅷ》

制作にあたっては「現場での写生を軸とした作品制作を心がけています。写実とは、リアルとは何なのか考えていく中で、写真を用いず現場での観察のみを手がかりに制作する方法に至りました。徹底した現場制作には様々な制約が伴います。それらを包含した表現にリアリティーの多元性を見出し、自身の研究テーマを『多元的リアリティーの絵画表現』としました。今後はアーティスト・イン・レジデンスや留学の機会などを使って積極的に動きたいと考えています。様々な場所に赴き、私自身も予期しない出会いやコミュニケーション、出来事から影響されることを期待しています。今後はアートマーケットに限らない幅広い活動(壁画制作や風景画・肖像画などの依頼等)もしていきたいと考えています」と言う。

桜井旭《新しいアトリエの窓》画像

桜井旭《新しいアトリエの窓》

山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。

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