松本市美術館が主催する、70歳以上の公募による美術展「老いるほど若くなる」は、2022年9月15日(木)から11月15日(火)まで、第9回目の公募をおこなう。テーマは自由で、各種公募展未発表の平面作品(日本画・水彩・油彩・アクリル画・パステル・版画・水墨画・コラージュ等)が対象。
天衣賞(グランプリ)1点に50万円、無縫賞(準グランプリ)2点に各15万円、審査員賞3点に各6万円の賞金が贈られるほか、スポンサー各賞と入選が合わせて約70点選出される。入賞・入選作は展覧会パンフレットに掲載されるだけでなく、審査員や同館学芸員の講評が添えられることも制作の励みとなるだろう。
この公募展の最大の特徴は、「応募資格が70歳以上の人」ということだ。国籍や職業、経験等は問わない。「70歳を迎え、この公募展に早速申し込みました」との声もあり、応募を創作活動の目標のひとつに据えている人も多いのだという。超高齢化社会を迎えた現代ならではの企画といえるだろう。
第9回展の公募にあたって、パンフレットやホームページには次のような文章が掲載されている。
「絵を描く」ということ・・・
本公募展は「華麗ではないが美しい世界、巨大ではないが強い世界、技巧はないが技巧を超えている世界、画法・画論に還元できないもうひとつの美術を『翁』に求めました。」と謳い、2003年度に始まりました。美術の公募展では、若手作家の発掘に主眼がおかれがちですが、本公募展では、年齢を重ねたからこそ描ける世界をご紹介する展覧会を目指して、70歳以上の方にご応募いただくものです。70歳に達すれば、経験等を問わず誰でも出品することができます。年齢は限界ではなくスタートに立つための唯一の資格であり、特権でもあります。皆さまの「描きたい」という気持ちにあふれた作品をお待ちしております。
記念すべき第1回展は、漫画家・サトウ サンペイ、美術家・横尾忠則、松本市美術館 館長(当時)・米倉守の3名が審査員を務め、全国から寄せられた346人(481点)の作品を審査。髙島瑞夫《75歳の自画像》がグランプリである天衣賞に輝いた。
ここに紹介する第1回展から第8回展の天衣賞受賞作品は、いずれも観る者へ力強くメッセージを伝える作品ばかり。当初は一人2点まで出展可能だったが、第4回展より一人1点となったことで、厳選された粒揃いの作品が応募されるようになった。
第4回展の展評の中で当時の館長・竹内順一は、審査方法について次のように述べている。
審査方法を紹介する。応募点数は467点、一人1点出品になったため、粒揃いの作品となった。
審査員3人は、約1,000㎡という広い企画展示室いっぱいに並べられた応募作品の前を何回か巡回し、全体を把握した上で、一人35枚の「持ち札」(三色のカード)を持ち、各々が自由にこれはと思う作品の前に持ち札を置いた。これが第1次選考。この選考では、他の審査員が選んだ作品に“重ねて”持ち札をおくことはしない。また、相談することもない。つまり、審査員の誰か一人が札をおいた瞬間に「入選作」となる。
「一人が、勝手に決めるのか?」と不審に思うかもしれないが、これが「傑作を選び出す」手法としては最善である。なぜなら、傑作は多数決で決めるものではないからだ。審査員に「多様性」があれば、おのずと展覧会が生き生きする。
これで105点が決まった。展示スペースにわずかに余裕があると聞き、ここが審査員の「心根」がやさしいところで、「あと5点増やそう」と、今度は合議して、計110点とした。
入選作は、各自15枚の持ち札で選ぶ。今度は“重なる”ことは可で、得票数をもとに、合議で順位をつけた。満票は3作品。これが大賞・準大賞となる。ちなみに、審査員の年齢は、佐々木75、中島65、私は70歳。が、誰も年齢のことは考えていない。
※第4回展の審査員を務めたのは館長のほか、日本画家・中島千波、弊紙でコラムを連載している洋画家・佐々木豊。
図録などで過去の入選作を見ても、実に変化に富む作品が選ばれていることがわかる。プロ・アマ問わず豊富な経験を有する描き手の作品が一堂に会する場に、審査員各々の視点が加わることによってこのような結果が生まれたのだろう。絵は上手い・下手ではなく、人を惹きつけられるかどうかで、それは人間の内面的な成熟にも似ている。寄せられた多くの入選作を目にする我々も、思わずはっとさせられることがあるのではないだろうか。
当初は3年ごとのトリエンナーレ形式での開催だった「老いるほど若くなる」だが、応募者らの強い要望により第3回展から2年ごとのビエンナーレ形式となった。過去全8回応募総数は3,873点にのぼる。第8回展の応募数は、過去最多の589点。年代別に見れば90代の割合が増えており、最高年齢は97歳、平均年齢は76.9歳だという。これらの数字は、高い関心が寄せられていることを示すだけではない。70歳を超えてなお創作意欲は衰えず、その上90代の応募が増えているとは、まるで企画タイトルの『老いるほど若くなる』を体現するかのようだ。
同展のグランプリ、準グランプリの賞名である「天衣無縫」とは、 天人や天女の衣には縫い目がまったくないさまを表す。転じて、物事がわざとらしくなく、自然で巧みなことや、飾り気がなく純真で無邪気な人柄をいう。まさにこの言葉に表されるように、技巧を弄することなく、清らかでいきいきとした作品が並ぶに違いない。
2023年2月18日(土)から3月26日(日)に開催される、入賞・入選作品展にもぜひ注目してほしい。
応募要項
応募資格
70歳以上(2022年12月31日現在の年齢。1952年12月31日生まれまで)
国籍・職業不問
募集作品
テーマは自由、各種公募展未発表の平面作品
※個展・グループ展等で展示したものについては応募可能。但し、グループ展等で賞を受けたものは除く。
※日本画・水彩・油彩・アクリル画・パステル・版画・水墨画・コラージュ・その他(書・写真を除く)
規格:50号(116.7cm×116.7cm、額装を含まない大きさ)以内
必ず額装(ガラス不可、アクリル可)すること。また、作品の画面が額より突出しないこと
出品点数
1人1点まで
出品手数料
5,200円(出品者には本展図録1冊と招待券を贈呈)
応募期間
2022年9月15日(木)~11月15日(火)
応募方法
①ながの電子申請サービスより応募フォームへ入力
※インターネットが利用できない場合のみ、応募用紙を松本市美術館へ持参または郵送。11月15日(火)消印有効
②申し込み後、松本市美術館から納入通知書と、搬入の際に必要となる作品票を郵送
③納入通知書により出品手数料を支払った時点で受付完了となる
※出品料の支払い期日は11月30日(水)まで。支払いが確認できない場合、応募は無効。
作品搬入・搬出方法
直接 | 委託 | ||
本人または代理人(画材店含む)による手続き(梱包・運搬・開梱・出品手続きを含む) | 宅配業者を利用 | ||
搬入 | 日時:2022年12月14日(水)~16日(金) 10:00~16:00(時間厳守) 場所:松本市美術館 |
日時:2022年12月14日(水)~16日(金)の指定日配達とすること(各日10:00~16:00指定) 宛先:松本市美術館 公募展担当 |
|
搬出 | 選外作品 | 日時:2023年1月24日(火)~25日(水) 10:00~16:00(時間厳守) 場所:松本市美術館 ※作品は必ず上記指定日にお引き取りください。 ※引取りの際は、必ず作品受付票をご持参ください。 ※指定期日に引き取りがない場合は、運送料等着払いで応募者宛に返送します。 |
審査結果通知後、作品展会期前に出品者の指定する場所へ搬送。 ※梱包・搬送は松本市美術館が指定する業者が行ないます。 ※梱包手数料・運送料等は出品者が負うもの(着払い)とします。詳細は8月頃に松本市美術館ホームページに公開。 |
入選作品 | 日時:2023年3月29日(水) 10:00~16:00(時間厳守) 場所:松本市美術館 ※作品は必ず上記指定日にお引き取りください。 ※引取りの際は、必ず作品受付票をご持参ください。 ※指定期日に引き取りがない場合は、運送料等着払いで応募者宛に返送いたします。 |
展覧会終了後2週間以内に出品者の指定する場所へ搬送。 ※梱包・搬送は美術館が指定する業者が行ないます。 ※梱包手数料・運送料等は出品者が負うもの(着払い)とします。 |
審査員
檀ふみ(俳優)、皆川明(ミナ ペルホネン デザイナー)、小川稔(松本市美術館館長)
審査結果発表
1月中旬頃に応募者全員に通知(郵送)するとともに、松本市美術館ホームページにて発表
賞
天衣賞(グランプリ1点) 賞金 50万円
無縫賞(準グランプリ2点) 賞金 各15万円
審査員賞(3点) 賞金 各6万円
その他、スポンサー各賞、入選(約70点)
※グランプリ作品は、受賞者から松本市に寄贈するものとする(松本市美術館が所蔵)
※入選作品には学芸員の講評あり
表彰式
入賞・入選者宛に通知
入賞・入選作品展
70歳以上の公募による美術展
第9回 老いるほど若くなる
・会期 2023年2月18日(土)〜3月26日(日)
・会場 松本市美術館 企画展示室
[information]
松本市美術館
・住所 長野県松本市中央4-2-22
・時間 9:00〜17:00(入場は16:30まで)
・休館日 月曜日(祝日の場合は翌平日)
・TEL 0263-39-7400(開館日の9:00〜17:00)
・URL https://matsumoto-artmuse.jp
松本市美術館で開催中の特別展「草間彌生 版画の世界」紹介記事はこちら