コラム

前方後円墳は現代アートである
日本異次元文明論 -第7回-

文=庄司 惠一

紙媒体として発行していた雑誌「美術屋・百兵衛」No.53から連載中の日本文化論。好評につきWeb版の「美術屋・百兵衛ONLINE」でも連載を継続します(3ヶ月ごとに更新予定)。その永い歴史において、独自の文明を育んできた日本。この連載は、弥生時代に栄えた山岳信仰にはじまり、禅、華道、日本画、剣道、和食、100円ショップなど、古代文明から現代に受け継がれるものまで、広範囲に日本文化の魅力を探るものです。(編集部)

第二章 異次元文明を支える日本文化
日本の多種多様な文化(前号=紙媒体版No.59より続く)

香を焚き、香を聞く
◎香道

沈水香道(天然香木)として東南アジアではじまり、日本に伝わり独自の芸術へ発展する。
推古天皇時代の595年に淡路島に「伽羅」が流れ着いたという記録がある。香を嗅ぐことを香を聞く(聞香-もんこう)といい、香を当てる「源氏香」などもある。
「御家流-三条西家」と「志野流-足利義政時代の志野宗信」がある。その後、色々の流派ができ、源氏香・競馬香(くらべ馬香)もできています。
源氏香は5種の香をそれぞれ5包ずつ計25包作り、任意に5包を取り出し香を嗅ぎ分け5本の縦線に横線を組み合わせた図で当てる優雅な遊びで源氏物語の各帖の名が付けられている。
源氏香は名前から平安時代からあったと勘違いをしていたが、意外に新しく江戸時代後半の「後水尾天皇」(第一〇八代)の時代に考案されたと知りました。織田信長が正倉院の天下第一といわれる名香木「蘭奢待らんじゃたい」を切り取らせたのは有名で、天皇以外では足利義満と信長だけだというエピソードが有ります。
信長は顕著な武功のあった部下に褒美として与えると部下は多いに感激したとか。

前進出来ない駒はない
◎将棋
将棋イメージ
将棋は二人で行う盤上遊戯(ボードゲーム)の一種で、一般に「将棋」という時には、特に本将棋(ほん将棋・古将棋や現代の変形将棋や変則将棋と区別するための名称)を指します。チェスなどと同じく古代インドのチャントランガが起源といわれていて、西へ伝わっていったのがチェスで東へ伝わり最終的に日本へ伝わったのが将棋です。日本には中国経由で伝わったといわれているが、インドから直接伝わったとの説もあります。シャンチー(象棋)は中国やベトナムで将棋選手権の盛んな将棋類であり二人で行うボードゲームの一種です。中国では国家の正式なスポーツ種目になっていて、中華人民共和国の非物質的文化遺産に登録されています。シャンチー(象棋))は日本の将棋と同じく駒を取りあいますが取られた駒は再利用できません。これが日本の将棋と根本的に違うところです。
将棋人口は約530万人で国際将棋フォーラムや世界コンピューター将棋選手権の開催もあり、日本国内外の普及も進んでいます。
また、若い藤井聡太四段(2019年3月現在七段)の出現で従来の将棋ファンの年代幅が拡がり小学生やその下の年齢層まで愛好家が増えています。
将棋は9×9の81マスの将棋盤と40枚の将棋駒が普及し、「はさみ将棋」や「まわり将棋」など本将棋の他にも将棋盤と駒を利用して、別のルールで行う遊びがあり「変則将棋」と総称されます。歴史的には「大将棋(225マスと130駒)」・「中将棋(144マスと92駒)」・「小将棋(81マスと40駒)」があったが、これらは「古将棋」と呼ばれ、現代でも少しの愛好家が存在しますし、福井県には「朝倉(戦国大名)将棋」が残っていてイベントの朝倉将棋の大会も開催されています。
チェスには持ち駒(取り駒)の再利用制度がなく、将棋には持ち駒が再利用出来るところに大きな違いがあります。将棋の駒である金・銀・桂(馬)・香(やり)は資産貿易品を表し、将棋は戦争という殺し合いのゲームではなく相手から奪った資産は自分のモノになるという当然のルールが生まれたともいわれています。
「応仁の乱」などの実際の戦争に嫌気がさした貴族により、ゲームであっても戦争を忌避し「駒を殺さず再利用」するというルールが生まれたともいわれています。
1612年(慶長17年)頃に幕府は将棋と囲碁の達人であった「大橋宗桂」や「加納算砂(本因坊算砂)」らに俸禄を与え江戸幕府の公認となりました。宗桂の後継者は将棋の家元となり最強の者が「名人」を称し現在に至っています。現在では名人戦など色々なタイトルがあり、女流棋士も出現しプロのタイトル戦やアマチュア将棋戦が開催されています。また、コンピューター将棋選手権も開催されコンピューターの方が棋士に勝つことが多くなってきていますし、一般にもコンピューター将棋が盛んです。競技人口は1680万人(1985年)から530万人(2015年)へと減少傾向にあったが「藤井聡太」君の出現により幼児や小中学生などの若年層にも将棋人気が高まり競技人口も800万人超となっています。
私も将棋は少々やりますので、大山・升田両名人の対戦には興味津々で興奮して結果を見守ったものです。中学生の藤井聡太君の出現は大変驚きましたし、経済効果も大きいようです。
藤井君のサイン入り将棋扇子やグッズは売り出さられれば即完売の状態で、将棋ゲームや将棋盤・将棋駒販売や将棋会所などへも好影響を与えています。私の知人は将棋連盟の扇子を作っているので大変忙しかったそうです。
最近、バラエティ番組で人気の独特のキャラクターを持つ「加藤一二三」さんは天才少年と言われたとスゴイ棋士だったとは…。棋士が何十手先まで読めるといわれていますがどんな頭の構造になっているのか?
以前、谷川棋士が兄は頭が良くないので東大へ行ったが、自分はもっと難しいプロ棋士になったとの記事を観た覚えがありますが、その記憶力・判断力・集中力があればさもありなんと思っています。

◎和紙
和紙イメージ
日本古来の紙で繊維が長く薄くて強く寿命が長く風合いが良く、墨の文字とともに千年も持つといわれる。手漉き(建具・寝具・着物)と機械漉きが有る。応神天皇時代に百済人の王仁が伝えたといわれ奈良時代にはすでに美作・出雲・播磨・美濃・越で盛んであった。この地域は古代から栄え渡来人が多く住みついたといわれている地域である。原料はこうぞ・みつまた・雁皮紙・まゆみである。世界中の美術館の所蔵品の修復、特にルーブル美術館の所蔵品の修復には和紙が使われ、日本の職人が常駐していると聞きました。掛け軸の修復や新調に和紙は必須ですし、風格は和紙の種類の選択によって左右されます。
日本の紙幣は質が良いといわれているが、上質の和紙はほとんど日本銀行に買い上げられ紙幣(お札)に使われているのはご存知ですか。
普通の色紙での寄せ書きが小さい場合は、上質の和紙に寄せ書きをして折り紙などを真ん中に飾ったりすると素敵な品になります。(折り紙の項を参照)

◎折り紙(折紙)
折り紙イメージ
紙を折って動植物などの形を作る日本伝統の遊びです。上級武家社会の和紙で物を包む為に用いた「折紙」「折紙形礼法」から礼法部が失くなり、庶民に遊戯用に発展普及したもので日本を代表する独自の文化で「Origami」として広く世界に知られています。
昔から折り紙の鶴や兜から花・果物・動物・魚・昆虫などから最近では若い人を中心に、バレンタイン・七夕・ハロウィン・クリスマス用などの新しい折り紙がどんどん考案されていますし、特に米国やヨーロッパで新しい日本の伝統文化として人気です。また、国内外で多くの折紙教室が開かれ折り紙の入門本から専門本まで多く出版されています。

T社でフランス駐在員を約30年務めた方からフランス人の友人の革の匠がフランスの人間国宝といわれるフランストップの「国家最高優秀職人賞(MOF)」を授与された祝いのパーティで日本的なもので記念に残ることをしたいと相談を受けて…日本の人間国宝の和紙(普通の色紙の4倍位の大きさで5000円以下-安すぎる)への寄書きを提案すると即決され、京都でNO.1といわれる紙店で購入してフランスへ持って行きました。フランスのパーティー会場でフランス留学中の彼の娘さんがその場で鶴を折り、日本の人間国宝制作の和紙の真ん中に糊づけして、参加者全員で寄書きをしてプレゼントするとその匠は大感激したとのことでその後、額を特別オーダーしてその寄書きをリビングに飾り宝物にしているとか。日本の折紙=折鶴と和紙が素晴らしいことを再認識しました。

◎蛍(ほたる)
蛍イメージ
日本における「蛍」は、初夏の風物詩としてあまりにも有名です。
日本で生息する蛍の種類は、世界中の蛍の数が2000種類ある中、40種類前後とごく僅かで、日本固有種の代表的なものといえば「ゲンジボタル」「ヘイケボタル」「ヒメボタル」の三種類といえるでしょう。特に「ゲンジボタル」は、本州・四国・九州と周囲の島に分布し、光が他の蛍よりも大きく、光の間隔も長いとされています。水辺に飛ぶ「ゲンジボタル」は、その明滅間隔が2~4秒であることが余韻を含み光の間隔が幻想的なものとなっており、日本人の蛍への独特の感覚が作られたのではないかと考えます。また、「ヘイケボタル」は、沖縄を除く日本全域に分布しています。蛍の光と色、そして暗闇。そこから、美や幻想、癒し、はかなさを感じ、「風情」あるものとして太古の昔から現代人に受け継がれています。
720年頃の奈良時代に書かれた「日本書紀」に初めて登場し、平安時代になると「万葉集」や「源氏物語」にも登場します。平安時代は貴族による「ホタル見」、江戸時代は庶民の「ホタル狩り」として親しまれていました。現代でも、日本各地で「ホタル祭」や「ホタル観賞会」が行われています。
梅・桜・アジサイ・ホタル・蝉…など、四季折々の風物詩として、日本文化に欠かせない景色の一部となっています。
「ゲンジボタル」の名前の由来は諸説あり、源平合戦の発端となった以仁王の拳兵の際、負けて討ち死にした源頼政の無念が蛍に例えられたことからこう呼ばれるようになったという説がひとつ。そしてもうひとつは「源氏物語」の中に登場する「光源氏」が蛍のように光り輝く、という描写からきたという説もあります。また、「ヘイケボタル」の由来は、これも諸説ありますが、「ゲンジボタルよりも小さい」ことから、源平合戦で負けた平家になぞらえているという事です。
和歌や童謡、俳句や短歌まで、広く親しまれた「蛍」。京の里山の美しい河川に独特の優しいリズムで光の乱舞を繰り広げています。また、都会においても古来からの水脈に「蛍」を見ることがあり、悠久の刻を感じさせてくれます。(続く)

上岡奈苗《日和の譜》127×127cm

 

『日本異次元文明論』書影

前方後円墳は現代アートである
日本異次元文明論
庄司 惠一 著
発売:オクターブ/価格:本体3.500円+税
仕様:A5判・173ページ/発行日:2019年11月12日
ISBN:978-4-89231-211-73

庄司 惠一
MASA コーポレーション会長。
1939(昭和14)年、和歌山県田辺市生まれ、京都市育ち。
神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒。1972(昭和47)年、京都・五条坂に画廊「大雅堂」を開く。1986(昭和61)年、京都・祇園に画廊を移築オープン。2008(平成20)年8月から現職。

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