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アートの街、北加賀屋を散策!
千島土地コレクション「TIDEー潮流タイドフォームになるときー」

 

大阪市の南西部を流れる木津川の河口近くに位置する町、北加賀屋。このあたり一帯は大正時代になると造船業で栄え始めた。高度成長期には約2万人が働いていたといわれ、彼らのための住宅や商店を中心に町が形成された。
しかし、産業構造の変化によって1970年頃から造船業は次第に衰退し、同時に町の活気も失われていった。そこで立ち上ったのが、北加賀屋の土地の約3分の2を所有する千島土地株式会社。「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」を掲げ、一帯を創造性あふれる魅力的なまちに変えていく試みを2009年から進めている。現在、KCV関連の拠点は40箇所を超え、「アートのまち北加賀屋」が少しずつ形になってきた。

千島土地株式会社は、今年で株式会社設立110周年を迎える。それを記念した展覧会「千島土地コレクション『TIDEー潮流タイドフォームになるとき』」が7月6日(水)から11日(月)までの期間で開催される。本展は家具店を再生したギャラリー <kagooカグー> をメイン会場に、北加賀屋各所でおこなわれる。まちあるきに出かけるには絶好の機会だが、それに先駆け、百兵衛ONLINEでは北加賀屋のアートスポットを紹介する。

千島土地コレクション
「TIDEー潮流タイドフォームになるときー」

 

千島土地コレクションバナー

この展覧会は、関西の若手アーティストをはじめとした、千島土地株式会社のコレクションを紹介するもの。キュレーションは、KCV拠点の一つであるシェアスタジオSuper Studio Kitakagaya (SSK) で活動するアーティスト・笹原晃平。笹原は、以下のように展覧会のコンセプトについてコメントを寄せた。
本展覧会は、1969年にスイスで開催された「態度が形になるとき」を参考に企画されました。 ここでは千島土地コレクションにおける、①収蔵の経緯、②場所の来歴、③作家の由縁、④作品の遣道、というそれぞれの「潮流」が交錯する瞬間的な状況を、展覧会という「形」で広く公開する試みを行います。 アートフェアの内側では議論のしづらい「人はなぜアートを所有するか?」を問いかけながら、 街で生きること(=Live in your town)を考える場となる展覧会を目指します。

アーティストの支援を目指してきた同社が長年にわたって蒐集してきた作品は、アートのまち北加賀屋の歩みと共にある。ぜひこの地に足を運んで楽しんでいただきたい。

  • kagoo画像
    「潮流が形になるとき」メイン会場のkagoo

「ART OSAKA 2022」Expanted Section 会場
<クリエイティブセンター大阪>

北加賀屋エリアでは、現代美術のアートフェア「ART OSAKA 2022 Expanded」(大型作品に特化したセクション)が千島土地コレクション展と同会期で開催される。

会場となるのは、クリエイティブセンター大阪(CCO)である。ここはかつて名村造船所大阪工場があった場所。広大な敷地を利用した大型作品に特化するフェアは、日本で初めての試みとあって見逃せない。

  • ART OSAKA

※参考画像のため、出展作品とは異なる場合あり。

さらに、CCOの屋外は千島土地コレクション展のサテライト会場でもある。屋内外で展開される作品群は、眼前にダイナミックな広がりを見せるだろう。

「ART OSAKA 2022」の記事はこちら

カオスに集合
<千鳥文化>

ここで、工場地帯の南東に位置する<千鳥文化>を紹介しよう。まるで別々のパーツを寄せ集めたかのような見た目の建物である。

外観だけでなく、内部も入り組んだ構造をしている千鳥文化。ここは造船業に携わっていた労働者の集合住宅として利用されていた。築年数がおおよそ60年の文化住宅(近畿地方で、主に1950年〜60年代に建てられた集合住宅)は、リノベーションされ、2017年に現在の形に生まれ変わったのだという。

ツギハギをしたかのような構造が生まれたのは、リノベーションによるものではなく、増改築を繰り返したためなのだそう。驚くべきことに、持ち主(オーナー)ではなく当時の住人が勝手に工事を始めたらしい。平屋に継ぎ柱をして2階建てにし、住宅の壁を突き破るように柱を通し、隣り合った住宅と連結させたこの建物。その構造は玄人が設計をしたものとは到底思えないが、おそらく造船業に携わっていた住人の、木工の技術が活かされているのだろう。

千鳥文化の2階から。吹き抜けの空間も、当時の様子を活かしたもの。

千鳥文化画像

千鳥文化の2階から。よく見ると古い柱がそのまま残っているところも。

 

そんな歴史を持つ千鳥文化には、カフェやバー、ギャラリーやショップなど多彩な店舗が集まっている。今や、若い女性も多く訪れるカルチャースポットとしても人気だが、内部の至るところに住宅だったころの面影が潜む。

千鳥文化画像 千鳥文化画像
2階のドアには「中島」の表札が残る。 子どものラクガキも残っていることから、この空間に家族で住んでいたと思われる。

金氏徹平の作品も展示されている2階は、ここで暮らしていた人々の時間と現代アートが交錯する不思議な空間である。作品が置かれた場所にも、住居スペースだった部分にも自由に出入りできるので、千鳥文化の隅々まで見ていただきたい。

  • 金氏徹平作品画像
    金氏徹平《クリーミーな部屋》 住居空間だった展示スペースにある作品

運営メンバーの一人、小西小多郎は千鳥文化、そして北加賀屋への想いを以下のように語った。

千鳥文化は“掴みどころがない”んじゃないかなと、自分では思っています。アートとは全く関係のないテナントがあったり、喫茶店として来る人がいたり。そのカオスのようにごちゃっとした雰囲気が、文化住宅の文脈を引き継いでいるように感じますよね。
ここはひとりの強いディレクションで運営されているわけではなく、緩やかな共同運営をとっています。訪れた人に“隙”や“入り込む余地”を自由に感じて頂いて、いろんな人が使いやすくなったらいいなと思います。千鳥文化というハブに集まる地域の人が、ここで自然にアートに触れることで「北加賀屋にはこんなんあんねんで」ってちょっと誇りになるような状態になったら一番嬉しいですね。

まちあるきに疲れたら、千鳥文化でほっと一息ついてみよう。北加賀屋の魅力を、より一層体感できるはずだ。

複合スタジオ
<Super Studio Kitakagaya(SSK)

千島土地コレクションのキュレーターを務めるアーティスト・笹原晃平も入居しているシェアスタジオSSK。築50年、天井高6m、敷地面積約650㎡、元造船所倉庫の雰囲気が色濃く残る、迫力あるインダストリアルなスペースが特徴的なスタジオだ。

SSK外観

SSKの入り口

 

そんなSSKが、千島土地コレクション展の会期に合わせて特別公開されるという。普段は公開していないアーティストやクリエイターの制作現場を見ることができるというものだ。この特別公開を前に、入居者の一人、河野愛に内部を案内してもらった。
彼女が入居しているのは、25㎡ほどの広さの個室スタジオ。1階と2階に同じようなスペースが計9部屋ずつ設けられており、個々のブースで創作活動に打ち込むことができるそうだ。

―SSKの特徴を教えてください
複合スタジオなのでいろんな“専門家”がいるっていうのがすごく良いです。ジャンルがバラバラで、木工をやっている人、映像をやっている人に、絵画も、デザイナーもいる。だから、私自分の制作の幅を広げていくことにためらいがなくなります。

―SSKに入居してみて感じたことを教えてください
すぐに他の作家の状況が見えるっていうのは私にとっては励みにもなるし、孤独じゃないと思えます。そこに、共同スタジオの意味があるなと思います。
一人のスペースが確保されている上で、ドアを開けて一歩外に出ると、誰かが作っている。それってすごく良いです。作品の話もできるし、情報交換もできるし、困った時に助けてもらえる状況がすぐにあるのも嬉しいですね。

SSKに入居している作家の河野愛

SSK画像

河野のスタジオ

一方、ラージスタジオエリアを使う作家もいる。ここは、50㎡ほどの占有面積と約6mの天井高を活かして、大型の作品やインスタレーションなどを制作できる場所。さらにここでは、モバイルスタジオと呼ばれる可動式のワークスペースの中でデスクワークをしたり収納スペースに活用したりと、個々のスタイルに合わせた利用も可能だ。そのほか、ラボ兼ギャラリーと呼ばれる共有空間や、レジデンス(滞在制作)ルームなど、様々な設備を備えた、アーティストにとって理想的な空間と言えるだろう。

SSK画像

2階から見たラージスタジオエリア

SSK画像

木工作業もできる別棟には、葭村太一の姿が見えた。

 

取材を通して感じたのが、このSSKは単に制作するためだけの場所ではないということだ。
制作環境の充実を目指すのはもちろんだが、様々なアーティストのコラボレーションによって化学反応が生まれることを期待した施設であるように感じたのだ。それは、千鳥文化を訪れたときの感覚と似ている。多方向から人やものが集まって、その中で新しい作品や文化を生み出す彼らの創造性に今後も注目していきたい。

まだまだある!
北加賀屋のアートスポット

そのほか、北加賀屋の少しカオスな街並みの中にはアートスポットが目白押しだ。
その中でも、「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」「モリムラ@ミュージアム(M@M)は、今回の千島土地コレクション展開催に合わせて特別公開される。ぜひ足を運んでいただきたい。

 

[information]
千島土地株式会社設立110周年記念事業
千島土地コレクション「TIDE - 潮流タイドフォーム になるとき-」
・会期 2022年7月6日(水)〜7月11日(月)
・メイン会場 kagoo(大阪市住之江区北加賀屋5-4-19)
・サテライト会場 千鳥文化 [ホール](大阪市住之江区北加賀屋5-2-28)
         クリエイティブセンター大阪 [屋外](大阪市住之江区北加賀屋4-1-55)
・時間 7月6日(水)、7日(木)13:00〜20:00 

    7月8日(金)〜10日(日)11:00〜20:00
    7月11日(月)11:00〜17:00
・入場料 無料
・TEL 06-6681-6170(千島土地株式会社 地域創生・社会貢献事業部、平日9:30〜17:00)
・URL https://chishima-foundation.com/projects/chishimatochi_exhibition

[information]
千島土地コレクション展に関連し以下の施設も開館されます
※期間はいずれも7月8日(金)〜7月10日(日)
Super Studio Kitakagaya
・住所 大阪市住之江区北加賀屋5-4-64
・時間 11:00~20:00
・TEL 06-6681-6170千島土地株式会社 地域創生・社会貢献事業部、平日9:30〜17:00)
・MAIL info@ssk-chishima.info
・URL https://ssk-chishima.info/
MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)
・住所 大阪府大阪市住之江区北加賀屋5-4-48
・時間 11:00~20:00
・TEL 06-6681-6170千島土地株式会社 地域創生・社会貢献事業部、平日9:30〜17:00)
・MAIL mask@chishima-foundation.com
・URL https://mask.chishima-foundation.com
モリムラ@ミュージアム(M@M)
・住所 大阪市住之江区北加賀屋5-5-36 2F
・時間 12:00~20:00
・TEL 06-7220-6985(開館中のみ受付)
・MAIL morimuraatmuseum@gmail.com
・URL https://www.morimura-at-museum.org/

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