展覧会

交歓するモダン
機能と装飾のポリフォニー

会場
豊田市美術館
会期
6/7(火)〜9/4(日)

“多声音楽”を楽しむ展覧会

フェリーチェ・リックス=ウエノ《 テキスタイル「クレムリン」》画像

フェリーチェ・リックス=ウエノ《 テキスタイル「クレムリン」》1929年 島根県立石見美術館

「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」と題された展覧会が、現在、豊田市美術館で開催中だ。この展覧会では、様々な「モダン」が生まれた1910年代から30年代の様子を一挙に展観する。

いくつもの「モダン」

機能主義に基づく「モダニズム」は、いまなお当時の中心的な動向とみなされている。
しかしその一方で、大衆消費社会が進展した時代でもあった。大量に消費される“モノ”を、常に新しく見せるため、装飾することに価値が置かれた、儚き「モダニティ」も、この時代に生まれていた。

実際、この対立的に捉えられることの多い二つの「モダン」はいくつものモダンの形をうちに含み、複雑に関係している。この時代は、ポリフォニー(polyphony:多声音楽)のように、濃密にかたちづくられたのだ。

──モダニズムの芽生え

1903年にオーストリアで設立された「ウィーン工房」。その最大の特徴は、幾何学的モチーフを多用するというデザインである。時代の変化に合わせたこのスタイルは、世界における前衛的なデザインの中心地として評価された。その後もウィーン工房は、名作のデザインを数々生み出すこととなる。

オーストリアのウィーン工房が“美的に”発展した一方、隣国ドイツでは機械化を肯定することで“社会的に”発展。
1907年に設立された同連盟は、近代的な産業生産と急速に進む経済発展に従い、製品の質的向上を目指そうとしていた。そのため、ウィーンよりも一層、厳格なスタイルを確立した。

ブルーノ・パウル《ダイニングチェア》画像

ブルーノ・パウル《ダイニングチェア》1908年 織田コレクション、北海道東川町

 

──モダニズムの隆盛から終焉、女性作家の活躍

1910年代後半以降のウィーン工房では、初期の厳格でソリッドなデザインにかわる表現が次々に生まれた。それは、女性作家たちによる、愛らしくロマンティックなデザインである。
また、大戦後の1919年ドイツでは「バウハウス」が設立された。織物工房にクラス分けされた女性作家たちが、新素材を使いながら織物を追求。一方、マリアンネ・ブラントなどは、金属工房でカラフルな色と魅力的な形態の作品を制作した。

マリアンネ・ブラント《ブックエンド》画像

マリアンネ・ブラント《ブックエンド》 1930/32年 宇都宮美術館

ロシア出身のソニア・ドローネーも、同時代に活躍した画家である。彼女はドイツで絵画を学び、その後パリへと移住。ファッションデザイナーとしても活躍したことで、「同時主義」という、極めて抽象的な様式の理論を深めた。

ソニア・ドローネー《リズム》画像

ソニア・ドローネー《リズム》 1915-30年 京都国立近代美術館 ©️Pracusa 20220322

ウィーン工房のテキスタイル部門では上野リチ(フェリーチェ・リックス=ウエノ)らが活躍。彼女たちのデザインに、フランスのファッションデザイナー、ポール・ポワレは感激し、生地を大量に買い付けたという。また、1911年に設立された同工房のモード部門ではマリア・リカルツ=シュトラウスがモード画を描くなど、両者は互いに刺激し合い、様々なモードファッションを誕生させた。

──日本とモダニズム

20世紀初頭のヨーロッパ同様、日本にも、新しい生活様式を模索する人々がいた。森谷延雄や斎藤佳三、「型而工房」に集ったデザイナーや建築家たちである。彼らはヨーロッパのデザインや社会性をそれぞれ参照し、日本人の生活に反映させようとした。
型而工房の思想は、中心メンバーである蔵田周忠がドイツ留学で触れたバウハウスに影響を受けたもの。家具などの部品一つ一つの規格を定め、“組み立て工程の合理化”を研究した。

ウィーン工房の上野リチもまた、日本に新しい風を吹き込んだうちの一人である。
1873年に開催されたウィーン万博の影響で、日本の美術・工芸品に注目が集まっていた、1900年前後のウィーン。そのような環境で、リチも日本に対する関心を育んだと考えられる。リチは、ヨーゼフ・ホフマンの建築設計事務所に在籍する日本人建築家、上野伊三郎と出会い、翌年に結婚。その後は京都で過ごした。
京都では、二人協働して「スターバー」などの店舗や住宅の設計や内装デザインを手がけ、注目を集めた。

モダンデザインと装飾芸術を一挙に紹介

本展覧会のいちばんの見どころは、断片的にしか紹介されてこなかった、モダンデザイン、装飾芸術、ファッションを一堂に集め、その関わりに焦点を当てるということ。

総合的な時代の変化を目に見える形で紹介することで、当時の作家たちが新しい時代をどのように生き抜こうとしたのかを、目にすることができるはずだ。彼らは、急速に変化する社会の中で、時間差なく情報を共有し、国やジャンルを越えて同期し合った。それはまるでポリフォニーのように。

[information]
交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー
・会期 2022年6月7日(火)~2022年9月4日(日)
・会場 豊田市美術館
・住所 愛知県豊田市小坂本町8丁目5番地1
・電話 0565-34-6610
・時間 10:00~17:30(入場は17:00まで)
・休館日 月曜日 ※7月18日、8月15日は開館
・観覧料 一般1,400円、高校・大学生900円、中学生以下無料
※障がい者手帳をお持ちの方(介添者1名)、豊田市内在住又は在学の高校生、及び豊田市内在住の75歳以上は無料(要証明)。
・URL https://www.museum.toyota.aichi.jp

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