ー流行とは無縁の、自らの表現を求め続ける画家たちー
最近は超写実作品や美人画が人気だが、今回はそんなブームとは無関係な作風の作家を紹介する。
まずは鈴木明日香。1983年沖縄県生まれで、東京藝術大学大学院絵画専攻修了。現役美大生の現代美術展、トーキョーワンダーウォール、線の芸術Ⅱ(不忍画廊)等に参加。修了展の彼女の作品に強烈なインパクトを受けて以来何度か見ているが先ごろ不忍画廊で初個展。彼女の作品については以下の個展の解説が詳しい。「空中にたゆたう裸婦、最果てから伸びる無数の手(あるいは黒い鳥)、幾層にも塗り重ねたオイルパステルを丹念に削り、溶かし、封じ込めた色や物質を表出させながら緻密に描き出す独特な方法。そのプロセスは、いにしえの世界から太古の生命体を再誕させていくようにも思える」
二人目は都築良恵。2018年武蔵野美術大学大学院日本画コース修了。平成27年度武蔵野美術大学卒業・修了制作展優秀賞受賞。彼女の人物、植物、風景等を足掛かりにして人間の内面世界を描き出す作品は強烈な存在感を持つ。カラフルな熱帯雨林の中の個性的な人物やモノクロのぎょっとする人物画は、人間の内側にどんな怒り、悲しみ、そして喜びという感情があるかを感じさせる。
三人目は洞口智香。1996年宮城県生まれ。2017年イタリアフィレンツェ国立美術院に一年間留学。2020年筑波大学芸術専門学群を卒業し、現在大学院在学中。この間アモーレ銀座ギャラリー、ギャラリーオルテールで精力的に発表を続ける。彼女の作品を見たのは上野松坂屋の「いい芽ふくら芽」が初めてだが、人物と水の揺らぎが現代風で個性的な雰囲気を醸し出している。「物事の揺らぐ境界をテーマに油彩、ミクストメディアで制作をしている。東日本大震災・コロナのパンデミックを経て、どの時代にも他者や生と死などの対比される事象の中で人間は揺らぎながら存在している。その揺らぎこそがオプティミスティックな原動力を持っており、人間たらしめているものだと思う。そのエネルギーを表現という形に落としたい」という。
最後は古賀雄大。彼は九州産業大学・芸術学部・日本画の学部生。彼の作品は昨年あいおいニッセイ同和損保のUNPEL GALLERY(アンペルギャラリー)が全国の美大に東京での発表の場を提供するシリーズ企画展で初めて見た。九州産業大学の日本画は毎年1学年10人前後という学生数で、東京で学部生の作品を見る機会はないが、たまたま上記ギャラリーで見ることができた。昨年のモノクロで描いた人物画の大作は今もって気になっているが、今年も同ギャラリーで2回目の展覧会が開催された。今年の展覧会の彼の言葉には「現実と理想の狭間にある自身の感情を描く。絵の中の人物は私の代弁者である。目を背けたくなるような現実と向き合うことで見えてくる僅かな希望を真っ直ぐに表現したい」とある。
山本 冬彦
保険会社勤務などのサラリーマン生活を40余年続けた間、趣味として毎週末銀座・京橋界隈のギャラリー巡りをし、その時々の若手作家を購入し続けたサラリーマンコレクター。2012年放送大学学園・理事を最後に退官し現在は銀座に隠居。2010年佐藤美術館で「山本冬彦コレクション展:サラリーマンコレクター30年の軌跡」を開催。著書『週末はギャラリーめぐり』(筑摩新書)。