現代アートの巨匠、
ゲルハルト・リヒターの待望の個展が
東京国立近代美術館で今夏開催!!
2012年のオークションで存命作家の最高落札額(当時/2132万ポンド=約27億円)を更新するなど、世界のアートシーンで常に注目を集めてきたゲルハルト・リヒター。そんな彼の個展が、6月7日(火)から10月2日(日)まで東京国立近代美術館で開催される。リヒターの日本の美術館での個展は、2005年から2006年にかけて金沢21世紀美術館、DIC川村記念美術館で開催されて以来、実に16年ぶり。また東京の美術館での大規模な個展は今回が初めてとなる。
リヒターは油彩画、写真、デジタルプリント、ガラス、鏡など多岐にわたる素材を用い、具象表現や抽象表現を行き来しながら、人がものを見て認識する原理自体を表すことに、一貫して取り組み続けてきた。彼にとって、ものを見るとは単に視覚の問題ではない。芸術の歴史、ホロコーストなどを経験した20世紀ドイツの歴史、画家自身やその家族の記憶、そして私たちの固定概念や見ることへの欲望などが複雑に絡み合った営みであることを、彼が生み出した作品群は我々に語りかけている。
リヒターが大切に手元に置いてきた初期作から最新のドローイングまでを含む、ゲルハルト・リヒター財団の所蔵作品を中心とする約110点を紹介するこの展覧会。今年90歳を迎えたこの画家の、一貫しつつも多岐にわたる60年におよぶ画業を紐解くものだ。
展覧会の見どころ
1. リヒター近年の最重要作品、日本初公開
幅2メートル、高さ2.6メートルの作品4点で構成される巨大な抽象画《ビルケナウ》は、ホロコーストを主題としたもので、近年の重要作品とみなされている。出品作のうち最大級の絵画であるこの作品は、日本初公開だ。
見た目は抽象絵画だが、その下層には、アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所で囚人が隠し撮りした写真を描き写したイメージが隠れている。リヒターは、1960年代以降、ホロコーストという主題に何度か取り組もうと試みたものの、この深刻な問題に対して適切な表現方法を見つけられず、断念してきた。2014年にこの作品を完成させ、自らの芸術的課題から「自分が自由になった」と感じたと作家本人が語っているように、《ビルケナウ》はリヒターにとっての達成点であり、また転換点にもなった作品である。
この展覧会では、《ビルケナウ》と全く同寸の4点の複製写真と大きな横長の鏡の作品《グレイの鏡》とともに展示される。
2. テーマでたどるリヒターの画業
会場では、初期のフォト・ペインティングからカラーチャート、グレイ・ペインティング、アブストラクト・ペインティング、オイル・オン・フォト、そして最新作のドローイングまで、リヒターがこれまで取り組んできた多種多様な作品を紹介。特定の鑑賞順に縛られず、来場者が自由にそれぞれのシリーズを往還しながら、リヒターの作品と対峙することができる空間が創出される。
【フォト・ペインティング】
写真を忠実に描くことで、絵画を制作する上での約束事や主観性を回避し、代わりに写真の客観性やありふれたモチーフを獲得する「フォト・ペインティング」と呼ばれる絵画のシリーズのひとつ。刷毛で表面を擦ることで生じた「ぼけ」は、絵画と写真とのあいだで、イメージのもっともらしさや客観性とは何かと考えさせる。
【カラーチャート】
1966年に初めて制作された「カラーチャート」シリーズに連なる作品。当初は、絵具の見本帖をもとに描かれたが、この作品は25色で構成された約50cm四方の正方形のカラーチップ、全196枚からなり、空間に合わせて異なる組み合わせで展示される。その並びによってなんらかの像や意味が生じることはないが、鮮烈な色彩の印象を観る者に与えるものだ。
【グレイ・ペインティング】
1960年代後半に始まった、グレイの色彩で画面を覆うシリーズについて、リヒターはグレイの色彩を「なんの感情も、連想も生み出さない」「『無』を明示するに最適な」 色と表現した。しかしグレイといっても作品によって色の調子や筆致が微妙に異なり、豊かなヴァリエーションを生み出しているのだ。
【アブストラクト・ペインティング】
「アブストラクト・ペインティング」は、1976年以降、40年以上描き続けられているシリーズだ。80年代中頃にリヒターは大ぶりなスキージ(へら)で絵具を塗り、そして削るという技法を確立した。近年では小さなキッチンナイフも用いることで、これまで以上に細やかな調子の変化を画面に見てとることができる。
【オイル・オン・フォト】
「オイル・オン・フォト」とは、1980年代後半から作られ始めた、写真に油絵具などを塗りつけたシリーズ。ほとんどの場合、日付が作品名になっている。絵具は写真のイメージを覆い隠し、物質的な存在感を強調する。一方、写真の再現性に比してその上に塗布される絵具はいつも抽象的だ。写真と絵具が混じり合うことなく、同一の平面上に並置されるこのシリーズは、小さいながらもリヒターの創作の核心を端的に提示してくれるものだろう。
【ドローイング】
一般的にドローイングとは絵画を描くための下絵、あるいは構想といった役割を果たすことが多い。一方、今回出品されるリヒターの「ドローイング」は、断片的な線や面を画面全体に配した、抽象的なもの。抽象的な「ドローイング」は「アブストラクト・ペインティング」を開始した1976年以降、断続的に描かれるようになった。製図のような直線、円、細やかな陰影は、何かを表しているわけではないようだが、じっと眺めていると、風景のようにも見えてくる。
「ドイツ最高峰の画家」とも呼ばれるリヒターの画業全体が俯瞰できるこの展覧会を、見逃すわけにはいかない。
ゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter)
1932年、ドイツ東部のドレスデンに生まれる。ベルリンの壁が作られる直前、1961年に西ドイツへ移住し、デュッセルドルフ芸術アカデミーで学んだ。コンラート・フィッシャーやジグマー・ポルケらと「資本主義リアリズム」と呼ばれる運動を展開。そのなかで独自の表現を発表し、徐々にその名が知られるようになる。その後、イメージの成立条件を問い直す、多岐にわたる作品を通じて、ドイツ国内のみならず、世界で評価されるようになった。ポンピドゥー・センター(パリ、1977年)、テート・ギャラリー(ロンドン、1991年)、ニューヨーク近代美術館(2002年)、テート・モダン(ロンドン、2011年)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク、2020年)など、世界の名だたる美術館で個展を開催。現代で最も重要な画家としての地位を不動のものとしている。
All images © Gerhard Richter 2022 (07062022)
[information]
ゲルハルト・リヒター展
・会期 2022年6月7日(火)~ 10月2日(日)
・会場 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
・住所 東京都千代田区北の丸公園3-1
・電話 050-5541-8600(ハローダイヤル)
・時間 10:00~17:00(金・土曜は10:00-20:00)
※9月25日(日)~ 10月1日(土)は休館日を除く全日10:00~20:00
※入館は閉館30分前まで
・休館日 月曜日(ただし9月19日[月・祝]、9月26日[月]は開館)、9月27日(火)
・観覧料 一般2,200円、大学生1,200円、高校生700円
※中学生以下、障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料。
※本展の観覧料で入館当日に限り、同時開催の所蔵作品展「MOMATコレクション」もご覧いただけ
ます。
※東京国立近代美術館(当日券)、オンライン(日時指定券)にて販売。
※詳細は、下記の展覧会公式サイトにてご案内予定。
・URL https://richter.exhibit.jp/
●この展覧会は東京展の後、豊田市美術館(愛知県)に巡回します。
会期:2022年10月15日(土)~ 2023年1月29日(日)