アーティストの多様性を認め合い、創造の可能性を広げる国際アートフェア「紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2021」。第7回目は、2021年10月9日(土)から10日(日)に開催されたオンラインと、10月15日(金)から17日(日)に開催された実会場での展示を組み合わせた、ハイブリッドなアートフェアとして開催されました。
前回「UNKUNOWN ASIA 2021 出展者インタビューVol.1」に引き続き、会場で辻井英里さん、アレトコレ ココさん、SUNABA Galleryのブースより、オーナーの樋口ヒロユキさんと在廊作家の池田ひかるさん、そして船越菫さんにお話を伺いました。
辻井 英里 Eri Tujii
レビュアー賞(熊崎益義賞、秀雅 a.k.a Hidemasa Kylin 賞)受賞
兵庫県出身の辻井英里さんは、2010年頃から作家活動を開始。2017年には、それまでの具象画を中心とした作品から抽象的な表現へと大きく作風を転換しました。現在は神奈川県で、絵具だけでなくモデリングペーストやメディウムを併用した「色と質感でみせる作品」を制作しています。
──UNKNOWN ASIAは以前からご存知だったのでしょうか?
初出展は2017年です。2019年と、2020年のオンライン、そして2021年で4回目の参加になります。
──2020年に、オンラインで参加された感想はいかがですか?
オンラインでも「質感が気になるので実物を観てみたいです」と興味を示していただけました。実会場とはアプローチの仕方を変える必要があると感じましたが、参加してよかったです。その時興味を持ってくださった方が続けてオンラインと実会場に来てくれているので、今回につながっていると感じます。
──やはり連続して参加することで、レビュアーやファンの方が増えるのでしょうか?
レビュアーと認識する前から知っているギャラリーの方もいらっしゃいますし、そういう方には出展前から作品を観てもらうこともあります。「だいぶ作風が変わってきたね」など、過程を見てもらえていると感じます。
──オンラインと実会場の違いや、それぞれの利便性はどんなところにあるでしょうか?
オンラインは海外の方に観てもらいやすいです。特に私の作品は、実物を観ていただいたほうが魅力が伝わりやすいものですが、「こういう作品を作る作家がいるのだ」と周知することはできます。深く理解するには実会場のほうがいいのですが、幅広い層に認知度を高めるにはオンラインがいいと思います。Webで作品を見た人が実会場に来て「この作品が観たかったんです」と言ってくれるのでよかったです。
──価格を明示していないのには意図があるのでしょうか?
以前は表示していましたが、純粋に作品を観るためには邪魔な情報だと思ったので今は外しています。個展でも、作品のそばに価格を表示せずにプライスリストを別に用意しています。
──作品のコンセプトは何でしょうか?
「色と質感でみせる作品」です。青はもともと好きな色で、空ではなく海の青をイメージしています。なぜ海の青に惹かれるのか深く考えたときに気付いたのが、海の中の環境が人の精神面と重なる、という考えが自分の中にあったことです。そのため海に興味を持ち、海の青を使いたくなりました。3〜4年ぐらい前から、感情に応じた質感と色で表現しています。
──まるで画面を区切るように、凹凸によって直線が表されているのはなぜですか?
感情には色々なものが入り混じっており、動きもするし、その時々で変わります。一方、湧き上がる感情とは別に、線には「琴線に触れる」「線を引く」「一線を画す」などの言葉にあるように、「自分はこの道を行こう」「ここから先は自分の領分ではない」などの意識が関わると思います。人の内面を表現する時には質感(画面のテクスチャ)のみではなく、時折、「決めた道」のような線が必要だと思っています。
──作品を観た方からどのような感想を聞かれましたか?
「何を使って描いてるの?」と質感を生み出している画材に興味を持っていただくことが多いです。遠くからだと絵が平面的にかけてあると思うだけですが、近づいてみたら結構色んな質感がありますので。砂やモデリングペーストを使って画面を盛り上げて、質感を作ったあとにアクリル絵具で色を塗っています。質感作りを失敗してしまうと、一からやり直しになってしまうのが大変です。質感を作るときは、常にこのひと手を加えるべきかどうかを考えながら進めています。
■辻井英里
URL https://sas-eritsujii.studio.site/
Instagram https://www.instagram.com/eritsujii/
アレトコレ ココ Coko Aretokore
スポンサー賞(FESTIVAL CITY賞)、レビュアー賞(板倉康裕賞、中川悠賞)受賞
大阪出身の彼女は、学生時代からインスタレーションや彫刻作品の制作をおこなっていました。2018年にワイントップアートというジャンルを築き、「アレトコレ ココ」という作家名での活動を開始。捨てられるはずのワインの蓋を素材に、動物をモティーフにした作品を制作しています。
──UNKNOWN ASIAには初めて参加されるのでしょうか?
2回目です。去年のUNKNOWN ASIAオンラインにも参加しましたが、半立体の作品を作っているので、実展示に出したくて今回も出展しました。大きなイベントは初めてです。ワインのキャップシールでの制作は、2018年から作り始めて3年目になります。
──UNKNOWN ASIAの実会場に出展されてみて、いかがですか?
百貨店で展示したことはありましたが、これだけ沢山の方に観てもらえる機会はいままでありませんでした。ちょっと予想がつかないですが、明日からの一般入場も楽しみです。
──なぜワインのキャップシールに注目したのですか?
友人とワインを飲んでいる時に、転がっているキャップに触れて、面白い素材だと思ったのがきっかけです。学生時代に彫刻を勉強していたので素材にできそうだと考えました。「蜂を作ってみて」など友達のリクエストに応えて作ったのが始まりです。その後、レストランで捨てられそうになっていたワインのキャップを見た時に、昔作った自分の作品(の写真)を見せて、「こんなの作ってるんですけど、ワインの蓋を頂けますか?」と聞いたところ、材料を譲ってもらえました。そこからさまざまな色があるのを知って、どんどん制作の幅が広がっていきました。レストランやバーで飾らせていただいたり、購入してくださる方もおり、展示の機会もふえていきました。
──なぜメインのモティーフに動物を選ばれたのでしょうか?
私は動物が一番好きで、子どもの頃から自分の中で特別な存在だからです。ものづくりと動物という2つの大きな「好き」をストレートに表現しました。また、動物を助けたいという思いもあるので、制作で得た売上げの一部を動物保護のために寄付することで、自分なりに社会貢献ができたらいいなと思っています。
■アレトコレ ココ
URL https://www.aretokore-coko.com/
Instagram https://www.instagram.com/wine.top.art.coko/
SUNABA Gallery
UNKNOWN ASIA初出展のSUNABA Gallery。ギャラリー名の「SUNABA=スナバ」は、作家、コレクター、ジャーナリスト、様々な人が集ってアートで遊ぶ、砂場のような場所になればという思いから名付けられた企画画廊です。2015年にオープンし、2017年には大阪市北区中崎西に移転。今後もアートフェアへの出展を企画しているようです。
オーナー
樋口 ヒロユキ Hiroyuki Higuchi
──出展されたきっかけや、実際に参加された感想をお聞かせください。
以前からレビュアーの枠でずっと拝見していましたが、今回の参加は事務局の方からお便りを頂いて招待してもらったのがきっかけです。うちから参加した作家さんは若い皆さん同士でコミュニケーションをとられていて、ギャラリーブースではプロフェッショナルな素晴らしいギャラリーの皆さんに揉まれて色々勉強させて頂いています。
──アジアを中心としたアートフェアで、オンラインでも開催されていますが、海外に向けて発信できることについてはどのようにお考えですか?
海外の売上は現状5%前後ですが、それを10%、20%と伸ばしていきたいと考えていますので、国際的なフェアにお世話になるのはありがたいと思います。
■SUNABA Gallery
・住所 大阪市北区中崎西1-1-6 吉村ビル302
・定休日 木曜日・金曜日
・営業時間 14:00~20:00(水曜日は18:00まで)
・電話 06-6586-9336
・URL https://sunabagallery.com/
在廊作家
池田 ひかる Hikaru Ikeda
滋賀県出身の画家・池田ひかるさん。自身の記憶をもとに風景のなかの幻想を描き、大阪、京都、滋賀で個展を開催するなど、精力的に活動されています。
──作品のコンセプトを教えてください。
滋賀県の蒲生など、自分が子どもの頃に遊んでいた地域を描いています。そのときの孤独感を制作のモティベーションにしています。描いている風景はなくなってしまった場所もあり、偶然自分がそこを描いていて、現実ではもう残ってないけど、絵では残すことができている。そういう、どんどん変わっていく風景を少女と一緒に描いています。
今回少女ではなく案山子やマネキンを描いたのは、幼少期に遊んでいた場所に畑が多く、案山子や、案山子代わりにマネキンが立てられていたのが、異様な風景として自分の記憶にあったからです。
──ノスタルジックな独特の雰囲気がありますね。作品を観た人からは、どのような感想がありましたか?
私は観る人に色んな解釈をしてほしいので、あえて顔を描かないようにしています。ギャラリーなどで在廊しているときに、観る人によって違う捉え方をされているのが面白いと感じます。
例えば、鏡を覗き込んでいる女の子を描いた時、鏡に何が映っていると捉えられるのか。そういう意図はなかったけど、「おばあさんになった時の顔が映っている」といった解釈は面白いと感じました。
──今後、描いてみたいものはありますか?
しばらくはこのテーマを続けようと思います。今は女の子と人形を描いていて、19世紀頃の古い写真などからヒントを得ています。なぜ人形と一緒に写真を撮っていたのかなど、自分の感じた疑問を描くことで消化していけるのではないかと思っています。
■池田 ひかる
URL https://hikaru-ikeda.tumblr.com/
Instagram https://www.instagram.com/ikeda_hikaru/
在廊作家
船越 菫 Sumire Funakoshi
大阪府出身の画家・船越菫さん。「TOKYO MIDTOWN AWARD 2020」のアートコンペでは、壁面と一体となるような大型作品『つながり』でグランプリを受賞しました。
──作品のコンセプトはどのようなものでしょうか?
窓から差し込む光などを目にした時、感覚や感情を伴った記憶が思い出されるような感覚になることがあります。私の記憶を揺さぶる光の存在感を、ぼかし技法を用いて油彩画に写真のピンボケのような質感をとりこむことで再現したいと考えています。同時に、対象物の輪郭を曖昧にすることで多様な解釈を促し、自分以外の観賞者の記憶にも問いかけるような画面をつくろうとしています。
──UNKNOWN ASIAに出展された感想はいかがですか?
都心の大規模な会場で沢山の方に作品をご覧いただくことができ、ありがたい経験になりました。また、他の方の作品も拝見することができましたが、初めて見る作家さんやギャラリーが多く、いい刺激になりました。
──今後の展望や、挑戦してみたいことをお聞かせください。
今は油彩画を描いていますが、引き続き光をテーマに、他の媒体を使った作品も制作してみたいです。水彩やエアブラシ、映像作品、また半透明の素材を使って自然光を直接取り込む展示などにも挑戦したいです。
■船越 菫
URL https://linktr.ee/smr.milet
Instagram https://www.instagram.com/m11let/
前回「UNKNOWN ASIA 2021出展者インタビューVol. 1」はこちら
■紀陽銀行presents UNKNOWN ASIA 2021 開催概要
【オンライン】
・日程:2021年10月9日(土)〜10日(日)
【実会場】
・日程:2021年10月16日(土)〜17日(日)/ VIP PREVIEW:15日(金)
・会場:ナレッジキャピタル コングレ コンベンションセンター
・住所:大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪 北館 B2F
・主催:UNKNOWN ASIA実行委員会 / digmeout / ASIAN CREATIVE NETWORK(ACN)
・エグゼクティブプロデューサー:高橋亮
・特別協賛:紀陽銀行
・URL:https://unknownasia.net/