1月25日(火)から「Gates」初の公募入選作品展「第一回 Gates Art Competition」が開催されている。今回は猫部門と人物部門の2部門が募集された。
今回紹介するのは、人物部門の応募総数441点の中から、グランプリに選ばれた萩原亜美。グランプリを受賞した時の想いや、その制作について話を聞いた。萩原作品から感じる独特の雰囲気の秘密にせまる。
──絵を志したきっかけを教えてください。
小さな頃から絵を描くのは得意だったので、ずっと画家になりたいと思っていました。絵を見せると喜んでくれる人の顔を見るのが嬉しくて、それは私の中で今もなお、最も大きなモティベーションです。特に祖父と祖母は今も昔も大きなリアクションで喜んでくれたり褒めたりしてくれるので、家族のおかげで今もこうして継続して描き続けることができているのだと思います。
また描くという行為を単に技術として考えた場合、自分の成長が目に見えやすいのも理由のひとつです。技術だけでは到達できない未知の表現への執着など、絵画の探究は難しさと楽しさとが表裏一体なので、描き続ける動機になっていると思います。
──人物を描く時にはモデルを使われるのでしょうか?
友人など身近な人物から許可をいただき取材して描く時もあります。海外のフリーアートモデルを提供している団体と契約をしており、そこから希望のモデルを探して描いています。性別や人種、体型だけでなく、ポーズや角度もバラエティ豊かなので。どうしても見つからない角度やシチュエーションが欲しい場合は、自分自身を撮影して素材を作るようにしています。作品によっては感覚と想像のみでモデルのイメージを制作することもあります。
──今回グランプリを受賞された『散髪』は、コマ割りで一連のシーンを流れるように表現した作品ですが、何から着想を得て制作されたのでしょうか。
映画の「ストーリーボード」の形式から着想を得ました。ストーリーボードとは、映画を作る際に監督が描く「設計図」のようなもので、監督はそれを元に画面構成や撮影スケジュールを決めて建設的に映像を仕上げていきます。
わたしにとって映画は幼い頃から非常に身近な存在です。映像を通して誰かの人生の体験や思考が、自身の内面に染み込んでいくような感覚に感動したのです。それは世界観やビジュアルだけの効果ではなく、総合芸術が持つ「ストーリー性」こそが奥行きと説得力を出しているということに気付きました。いつか自分で映画を撮りたいという願望と、絵を描きたいという願望の二つを合わせ、“絵画の中で映画を撮ろう”と考えました。
──作品からは描かれた人物や動物のストーリーを感じます。作品を制作する際、描かれたものの設定や、物語を考えられるのでしょうか?
今までの作品全てに言えることではありませんが、基本的にストーリー性を重要視しているので、絵画の中で映画を撮ることを主軸に制作するのを意識し始めてから、描く対象のバックグラウンドなどは詳細に決めるように心がけています。映画監督や漫画家などが脚本を練る際にもしていることですが、人物の家族構成、出身地や血液型まで細かく決めることでリアリティが生まれ、親しみを持って取り組むことができます。
今回受賞させていただいた絵画作品『散髪』でも、“主人公アンジーはバイト帰りの大学生で、その日の給与全てを新品のバリカンに注ぎ込み、晴れて長い髪を切ることを決意する”という風に設定して描き始めました。“トランスジェンダーの彼は、自らが望むありのままの姿になることを決意し、髪を切り落としつつ過去の自分を受け入れ、電話越しに短い話をした後、シャワーを浴びる” というような大まかな話の流れを事前に決めています。それを元に画面に収まるシーンの数と構成を計算し、制作していきました。
──グランプリを受賞したお気持ちはいかがでしたか?
小さな規模ではありますが、ここまでシーンを連結して描いたのは『散髪』が初めてでした。非常に実験的な試みでしたが、グランプリを受賞して、とても嬉しく思います。今後、より一層自信を持って制作ができるような、背中を押されたような気持ちです。
──今後の展望をお聞かせください。
この形式の表現方法を採用してからまだ日が浅いので、これからもっと作品数を増やせたらと思います。本来映画に不可欠なスタッフ、ロケ地や俳優も不要ですが、サウンドや実在性が削がれている条件下で、絵画だからこそ発揮できる可能性をもっと探っていきたいと思います。
また、絵画とは別に洋服の制作もおこなっているので、そのデザインとして使用可能な作品を個展でも数点発表する予定です。これまで自分の作品をあまり公表してこなかったので、これから展覧会などの発表の機会を増やせていけたら嬉しいです。
[Profile]
萩原亜美(ハギワラ・アミ)
1998年 静岡県沼津市 生まれ
2019年 東京都銀座アサギアートギャラリー展示
2019年 清水港湾博物館フェルケール博物館個展
2020年 静岡大学アート&マネジメント卒業
2020年 東静岡 東京藝術大学/静岡大学共同展示、LIFE IN THE BOXES グループ展
[展示予定]
『Gates Art Competition グランプリ作家 萩原亜美個展(仮)』
会期 2022年4月15日〜5月末
会場 Gates Museum「Art in Black」